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社説・コラム

コラム 視点「対話と信頼、柔軟性と妥協の精神が、核軍縮促進の鍵」

■センター長 田城 明 

 「1年前に新潟市の国連軍縮会議で会ったときは、頭髪ももっとあったし、黒かっただろう」

 ちゃめっ気たっぷりにこう切り出したフィリピン国連大使のリブラン・カバクトゥラン氏。エネルギーが凝縮されたような小柄な体から生まれる行動力。押しの利いた話しぶり。議長として今回の核拡散防止条約(NPT)再検討会議を成功に導いた要因には、核軍縮・不拡散を求める世界の政治状況がプラスに働いただけでなく、大使の気さくな人柄と行動力も少なからず寄与したことだろう。

 NPT再検討会議で日本政府は、被爆国にふさわしい役割を果たしたと思うか。米国の「核の傘」を受け入れる日本政府と、そこから抜け出すことを要求する広島・長崎両市とのギャップをどう考えるか。単刀直入に尋ねてもみた。

 「私にそれを聞かれても答えにくい」。苦笑しながら大使は「考えはあっても、外交官として発言するのは慎んだ方がいいだろう。基本的には、日本のみなさんが判断すること」。それ以上は「オフレコでなければ」と、カバクトゥラン氏は公のコメントを控えた。

 一方で、ヒロシマ・ナガサキの役割を高く評価する。2020年までに核兵器廃絶を求める平和市長会議の今後の在り方についてカバクトゥラン氏は、「継続して訴え続けることが重要だ」と期待を寄せる。そして、さらなる影響力を持つために「加盟都市を増やすだけでなく、世界中の非政府組織(NGO)など多くの機関と連携する必要がある」と課題も挙げた。

 全会一致で採択されたNPT再検討会議の最終文書には、核軍縮を促進し、不拡散を強化するための64項目の行動計画が記されている。NPT未加盟国を含めすべての核保有国が、(そして非核保有国も)、誠実に行動計画に沿って軍縮・不拡散措置を取れば、5年後の次回会議は廃絶時期をも展望できる状況が生まれていよう。

   しかし、中東、南アジア、北東アジアなど地域課題一つを取っても、解決は決して容易ではない。さまざまな課題を前に、カバクトゥラン氏はこう力説する。「関係国の対話と信頼、柔軟性と妥協の精神が、難題克服への鍵だ」と。

 NPT再検討会議での体験を踏まえたカバクトゥラン氏の言葉には、説得力がある。「国連大使として、今後も核兵器廃絶のために貢献したい」という氏の、国際舞台での今後の活躍に大いに期待したい。

(2010年9月6日朝刊掲載)

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