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社説・コラム

コラム 視点 被爆地の訴え無視、「核の傘」にすがる「平和創造国家」

■センター長 田城 明

 「羊頭狗肉(ようとうくにく)」というのは言い過ぎだろうか。  「新たな時代における日本の安全保障と防衛力の将来構想―『平和創造国家』を目指して」と題した報告書を読んでの思いである。菅直人首相の諮問機関で、学者や経済人、元防衛省高官ら11人からなる「新たな時代の安全保障と防衛力に関する懇談会」が、8月末にまとめたものだ。

   平和憲法を擁し、国連などではことあるごとに「唯一の被爆国」を唱える日本。その国が副題にあるように、能動的に「平和創造国家」として国際社会で活躍すべきだとなれば、核兵器廃絶を目指す世界の多くの人々の日本に対する期待も高まろう。

 ところが報告書の内容は、米国の通常・核戦力を含む拡大抑止、特に「核の傘」の重要性を強調する。日本の国是である非核三原則も、「持ち込ませず」については、状況次第で見直すべきだとの立場。一方で、日本は独自で軍事力を強化し、集団的自衛権行使の禁止や、武器輸出禁止政策も、見直すように提案する。

 底流にあるのは軍事力へのさらなる依存であり、憲法を改正しての集団的自衛権の行使や、紛争地を含む海外への自衛隊の派遣である。平和憲法の精神を生かして、積極的に核兵器を含む軍縮を世界に働きかけるという視点は、どこにもない。

 核廃絶に向けた具体的な取り組みは、核保有国の政府や国民に一義的な責任があるのは言うまでもない。しかし、米国の核抑止力に依存する日本や、ドイツなど一部の北大西洋条約機構(NATO)の国々にも、大きな責任はある。「核の傘」に入り続ける国があることが、米国に核軍縮への歩みを遅らせる口実を与え、それがまた他の核保有国の取り組みの鈍さの口実にもなっているからだ。

 核軍縮・不拡散に向け64項目の行動計画をうたった最終文書を全会一致で採択した、今年5月の核拡散防止条約(NPT)再検討会議。その会議を受け、8月下旬にさいたま市であった国連軍縮会議では、米国の拡大核抑止を求める日本の姿勢に、非核兵器国の政府関係者や非政府組織(NGO)の参加者らから批判や疑問が相次いだ。

 広島・長崎両市は、今年の平和宣言で政府に対して、非核三原則の法制化と核の傘からの離脱を強く求めた。核軍縮・廃絶への機運が世界的に高まる中で、自国政府こそ先頭に立つ道義的責任があると考えるからだ。廃絶を唱えながら核にすがる二重基準は、国際社会でもう通用しない。だが、報告書の提言は、被爆地の訴えを一顧だにせず否定した。

 年末までに新たな防衛計画大綱の策定を目指す菅直人改造内閣。被爆地の訴えがその中に生かされないとすれば、「平和創造国家」など言葉のまやかしにすぎないと言わざるを得ないだろう。

(2010年9月20日朝刊掲載)

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