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社説・コラム

社説 米の臨界前核実験 「平和賞」に背いた暴挙

 米国が9月15日、4年ぶりに臨界前核実験を実施していたことが明らかになった。オバマ大統領就任後、初めてである。

 昨年ノーベル平和賞を受けた大統領は「核なき世界」の理念を掲げてきたはずだ。明らかに逆行している。被爆地として到底容認することはできない。

 地下深くの実験場で高性能の爆薬を使い、プルトニウムに衝撃波を与えて反応や変化を調べる。それが1997年以来、核兵器の管理を理由に繰り返されてきた臨界前核実験である。

 これで通算24回目。なぜオバマ政権は踏み切ったのか。

 そこに見えるのは究極的な廃絶を唱える一方で、目の前の核戦力は維持する「二重基準」だ。1年前、3回の実験を予告していた。

 核爆発を伴わないため、包括的核実験禁止条約(CTBT)の規制は受けないというのが米国の主張である。

 手持ちの核兵器が計画通りの威力かどうかの点検も目的とする。実際の使用を想定しているのは明らかだ。核戦争を防ぐためという条約の趣旨とはかけ離れている。

 核兵器を維持するだけなら、もはや実験は不要との指摘が米国内にもある。政権は「新型の核兵器はつくらない」とするものの、疑念はぬぐえない。

 これまでと違うのは実験前に発表しなかったことだ。今後も事前発表の予定はないという。情報公開の点からも不信感を抱かせる。

 今回の暴挙は国際社会にも大きな影響をもたらすことになろう。今後とも核は手放さないとの意思を内外に示したことで、せっかくの核軍縮に向けた機運が失速する恐れもある。

 核軍縮への期待が込められたオバマ氏のノーベル平和賞決定から1年。国際社会は米国の態度に失望し続けてきたといっても過言ではない。

 5月の核拡散防止条約(NPT)再検討会議では、非同盟諸国が提案した廃絶への行動計画案を骨抜きにする側に回った。画期的な核兵器禁止条約の制定にも終始後ろ向きな姿勢である。

 ロシアとの間には新たな核軍縮条約を結んだが、なれ合いの数減らしとの批判も少なくない。

 計画では臨界前核実験はあと2回実施される予定だ。このまま続けるようなら、イランや北朝鮮、国際テロ組織に核が広がる「負の連鎖」を助長させることになろう。

 日本政府の鈍い反応も気に掛かる。仙谷由人官房長官は「抗議は考えていない」と述べた。これでは自公政権時代と同じだ。

 菅直人首相は広島市での平和記念式典で「核兵器のない世界に向けて先頭に立つ」と明言したことを忘れてはいまい。実験の中止を求めるのは当然である。

 ルース駐日大使が式典に初めて参列するなど、広島ではオバマ政権への期待も膨らんでいた。それだけに、被爆者の多くは「裏切られた」との思いが強かろう。被爆地から抗議の声を高め、国際世論に広く訴えたい。

(2010年10月14日朝刊掲載)

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