×

社説・コラム

社説 平和賞サミットの課題 被爆地の発信力高めよ

 「私たちは(We)」の言葉が3日間の論議を象徴していた。被爆地広島で開かれたノーベル平和賞受賞者世界サミットだ。世界市民こそ核兵器廃絶の主役であれ、という呼び掛けでもあろう。

 「核兵器の使用が非道徳的で非合法との見解を広げる」「核兵器廃絶条約の策定を求めていく」。サミットを締めくくる「広島宣言」に盛られた6項目の提言はいずれも「私たちは」で始まる。

 サミットに参加した受賞者・団体の代表は飢餓や貧困、人権、地域紛争の解決など多彩な分野で世界平和に貢献してきた。言葉よりも行動で実績を重ねた人たちといえる。被爆地で、あえて自身の行動を誓った意味をかみしめたい。

 その決意を市民と共有できるかどうか。私たち一人一人の行動も問われている。国家任せでは一向に核兵器をなくせない現実があるからだ。

 サミットの論議でも核兵器の非人道性や非合法性がクローズアップされた。明らかに違法とする国際法がない現状の裏返しである。

 包括的核実験禁止条約(CTBT)は発効せず、兵器用核分裂物質生産禁止(カットオフ)条約もいまだに本格交渉に入れない。核兵器削減は保有国同士の交渉に委ねられている。国際政治の舞台を傍観するだけでは、廃絶への道を覆う霧は晴らせない。

 印象的だったのは、対人地雷の禁止条約成立に貢献した活動家ジョディ・ウィリアムズ氏の発言だ。「核兵器廃絶を求める市民運動には何か足りないものがある」と問い掛けた。

 核兵器禁止条約の実現を主張する市民団体もあれば、北東アジアや中東の非核化などを重視する団体もある。多方面からの取り組みが必要なのは確かだが、一方で市民運動の総合力をそぐ。

 ウィリアムズ氏は世界中の市民や地雷被害者の声を結ぶことで禁止条約を勝ち取った。現状の核兵器廃絶運動は、さまざまな市民団体の力点の置き方が微妙に異なり、パワーが結集できていないと映るようだ。

 その意味で、世界市民の主張を一つにまとめる「仲立ち」の役割を果たすとすれば、被爆地をおいてほかにあるまい。

 ヒロシマ、ナガサキには65年前の体験があるだけに、訴えの持つ説得力や厚みは大きい。平和市長会議など世界を結ぶ市民ネットワークの基盤も強みだ。

 国際政治を動かすには、核保有国の国民を含めてヒロシマへの理解と共感を世界へいっそう浸透させる営みが欠かせない。ダライ・ラマ14世が提唱した国連の「ヒロシマの日」もその一つだろう。

 被爆者たちが紡ぎ出した体験記を多くの言語に翻訳する。さらにインターネットを使って広く伝える…。きのこ雲の下の人間的悲惨を全世界で継承していく方策はさまざまにある。

 被爆者や市民、行政が「私たち」として一体となる。何よりそれが、被爆地から発信力を高める鍵ではないだろうか。

(2010年11月18日朝刊掲載)

関連記事
平和賞サミットスピーチ要旨(10年11月18日)
<解説>広島宣言 実行力伴うか (10年11月17日)
バッジョ氏にサミット賞 日本被団協には特別賞 (10年11月17日)

年別アーカイブ