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社説・コラム

天風録 「北朝鮮砲撃」

■論説委員 江種則貴

 アジアの地図を広げると、韓国・延坪島(ヨンピョンド)は広島市から直線で約700キロ。国内だと千葉市辺りになる。そんな近場で起きた砲撃戦に言葉を失った。きのう島では民間人2人の遺体も見つかった▲赤い火柱から逃げ惑う人々の映像に、潘基文(バンキムン)国連事務総長の言葉を思い出す。今年8月6日、広島市の平和記念式典でのあいさつ。少年時代に朝鮮戦争を体験した潘事務総長は、燃える故郷の村から山へ逃げた記憶をたどりながら「多くの命が失われ、家族が引き裂かれ、悲しみが残った」と▲いまだ戦争は終わっていない。北朝鮮と韓国は軍事境界線を挟み半世紀以上にらみ合う。島周辺では軍の衝突も続いていたという。だからといって1700人の同胞が暮らす島に100発近い砲弾を撃ち込むのは、最後の一線を越えた蛮行だ▲金正恩(キムジョンウン)氏への後継固めなど「権力世襲の国」ならではの背景もあれこれ指摘されている。たとえ、どんな理由を並べたてようが、民間人への攻撃は許せないし、ウラン濃縮に手を染めた言い訳にもならぬ▲「人民に米飯と肉のスープ、瓦の家、絹の服を」。金日成(キムイルソン)主席の遺言とされる。尊ぶ気があるなら、よもや戦火のない暮らしを望む人々の心を忘れるはずもあるまい。全く理解できない「近くて遠い国」だ。

(2010年11月25日朝刊掲載)

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