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社説・コラム

平和賞サミット 軍縮アドバイザー座談会 核廃絶へ進む道は

■特別編集委員、ヒロシマ平和メディアセンター長 田城明

 12日から3日間、6人のノーベル平和賞受賞者や受賞団体、核軍縮専門家らを被爆地広島に迎えて開かれた受賞者世界サミット。「ヒロシマの遺産―核兵器のない世界」をテーマにした討議では、核軍縮・廃絶に果たす市民社会の役割が強調された。今後、私たちはどのような取り組みが求められるのか。今回のサミットの意義や被爆国日本への注文を含め、米国、ロシア、英国、ニュージーランドから軍縮アドバイザーとして参加した4人の専門家に、会場のホテルで話し合ってもらった=文中敬称略。


広島開催の意義

非人道性 世界に示す ウェアさん

 ―ノーベル平和賞受賞者世界サミットが広島で開かれた意義をどのように評価しますか。

 パラシェンコ 核時代を象徴する都市として、広島は長年にわたって核兵器廃絶のために人々を動員し続けてきた。11回を迎えた今回の世界サミットは、真に特別な会議になったと思う。体調不良で参加できなかったゴルバチョフ氏は、大変残念がっていた。ノーベル平和賞受賞者らが、平和のために一層働き続けるための素晴らしい舞台になった。

 ウェア 被爆地での開催は、非常によい決断だった。ヒロシマ・ナガサキの遺産を想起することは、核兵器の使用が人類への犯罪であり、国際人道法に違反することを強く思い起こさせてくれる。今はすべての人々が、核兵器禁止のためのプロセスにかかわるべきときなのだ。世界サミットは、そのことを強く印象づけたと思う。

 グラノフ 同感だ。ヒロシマは、核兵器の合理的な管理などというものは何一つないのだということを浮き彫りにしている。広島で起きた事実を声を大にして広く伝えることがとても重要である。

 ジョンソン 今回のサミットでは、米ロ間の新戦略兵器削減条約の批准や、包括的核実験禁止条約(CTBT)を発効させるなど目下の課題を前進させることの重要性が指摘された。同時に、5月の核拡散防止条約(NPT)再検討会議の最終文書に明記された人道的規範がより大きな焦点となった。私たちは核兵器の維持につながる古い考えを超えて、核兵器の使用、いや、すべての核兵器が人間性に反しているという人道的理解をもって前進する必要がある。


市民社会 どう取り組む

若者とともに行動を ジョンソンさん
経済界巻き込むべき グラノフさん

 ―被爆者や市民、NGO(非政府組織)など市民社会の役割が随分と強調されました。国家間の交渉では国益や軍事力の均衡などが前面に出てなかなか軍縮が進まない。世界の自治体の連携による平和市長会議は、その壁を克服する一つの取り組みですが、具体的にどのような方法が考えられますか。

 ウェア 広島・長崎両市が推進する平和市長会議は、都市にも外交政策の議論に加わる責任と役割、理由があることをよく示している。国会議員とNGOとの連携も重要だ。例えば北東アジア非核兵器地帯設置への動きでは、党派を超えた日韓両国の国会議員とNGOが連携して話し合いを始めている。通常なら双方の外交担当者の協議事項だろう。だが、現実には市民、国会議員がイニシアチブを取っている。協議を通じて当事者同士が相互理解を深めており、素晴らしいことだ。

 ジョンソン 私たちが英国で実践していることの一つは、トライデント型潜水艦の新規更新をめぐり政策決定を引き延ばす作戦を取っていることだ。議員や軍部、財界などにも働きかけ、国家予算をどう配分すれば国民のためになるのか、議論を通じて支持者を集めた。私たちはまだ新規更新を止めさせるに至っていないが、議論の過程を通じて核抑止力に対する国民の意識は随分と変わりつつある。

 グラノフ 会場には若者や子どもたちはいたが、残念ながら経済界の人たちはあまり見かけなかった。国際貿易の比重が高い日本の経済は、テロリストによる核爆弾がこの地球上のどの港湾都市で爆発しても、深刻な影響を受ける。主要な港湾の閉鎖が数カ月も続けば、経済は壊滅状態に陥る。それを考えれば、経済界にとっても核兵器の完全廃棄は大きな関心事であるはず。市民社会の重要な構成員として、彼らをもっと巻き込むことが大切だ。

 ―ロシアの状況はどうですか。

 パラシェンコ ロシアでは核軍縮の問題は、政府の政策にかかっている。ソ連が崩壊し、経済的な困難が続いた1990年代は、国際的にも極めて弱体化した。政府関係者の一部には「核兵器はわれわれの安全を保障する唯一のものとなった。だから核兵器の必要性を再び唱える必要がある。核軍縮の目標など忘れるべきだ」との誘惑にかられた者もいる。しかし、米国との新たな軍縮条約の調印など、決してそうはならなかった。

 ―将来もそういう事態は起きないと…。

 パラシェンコ ロシア政府の公式政策は、明確に核軍縮を支持している。他方で「核軍縮などフィクションにすぎない、夢物語だ」と信じている一部の世論に支持された権力層がいるのも事実。現実に起きているわけではないが、彼らの目標は核軍事力や核抑止力政策の維持、新しい種類のミサイル開発などにある。今、必要なのは、ロシア国民やエリートたちに核兵器の危険性を教える教育だ。

 ―核軍縮・廃絶への市民社会の参加は、核戦争がもたらす被害実態への理解や、世界の危険な核状況に対する認識の度合いによって大きく違ってきます。ウェアさんはニュージーランドで軍縮・平和教育にかかわってきましたが、政府の非核政策と市民の核意識はどうつながっていますか。

 ウェア 米ソ冷戦終結後、ニュージーランドでは地域や学校で、南太平洋でのフランスの核実験による放射線被害や環境汚染などについて積極的に教えていった。一方で身近に起きる対立をどう平和的に解決するかなど子どもから大人まで、さまざまなレベルで紛争解決のための実践をした。こうした地道な取り組みが安全保障に対する認識の変化をもたらし、外交政策の変化にもつながった。

 ジョンソン 広島・長崎の被爆者や市民、自治体と連携を図り、核戦争の被害実態をもっと広く伝えていく必要があると思う。その際に次世代を担う学生や子どもたちをかかわらせることが重要だ。  ウェア 世界に広めるという意味で、ノーベル平和賞受賞者らが協力してくれると一層浸透するだろう。

 パラシェンコ その通りだ。ロシア人が平和について学ぶ上で、国際人道NGOなどとの交流が欠かせない。こうした交流を通じて、核兵器の廃絶が長期的なロシアの利益につながっていることを学ぶ必要がある。

 グラノフ 悲しみや憎しみ、苦しみを乗り越え、暴力の否定、和解と対話を訴えるヒロシマは、世界の人々に強いインスピレーションを与えている。被害の実態と同時に、米国にもその声をもっと広めていきたい。


被爆国日本の役割は

禁止条約 リードして パラシェンコさん

  ―今回のサミットでも被爆地広島・長崎、被爆国日本への期待が多く語られました。でも、現実の日本は米国の「核の傘」の下にあり、核廃絶のために指導力を十分に発揮しているとはいえません。どう思われますか。

 ジョンソン 被爆を体験している日本人には、核兵器廃絶を望む非常に強い感情がある。核廃絶署名運動を展開すると、何百万人もの署名が集まる。しかし、残念なことは、そこで終わってしまっていることである。

 ウェア 同感だ。集めた署名が政府の政策に大きな影響を与えているようには見えない。問題は、どうやれば、人々の思いを政策に反映させるかということだと思う。市民社会の代表である国会議員や自治体の首長らがもっと大きな役割を果たす必要がある。

 パラシェンコ 核軍縮で日本政府はもっと役割を果たせると私も思っている。広島や長崎と同じように、核廃絶への情熱をもっと共有できるのではないか。それこそが、日本の人々が求めている感覚ではないだろうか。核兵器禁止条約に関してイニシアチブを取るなど、もっと積極的になっていい。

 グラノフ 米国市民は、核軍縮が進んだり、日本への「核の傘」を取り除いたりすると、日本のような国が核兵器保有に走る可能性があると教えられている。今こそ日本政府は「世界が核廃絶に向かっているときに、日本は核保有国にはならない。核兵器を拒否する」と明確なメッセージを発してほしい。それが、米国内のゆがんだ核議論に終止符を打つことにつながる。

 ジョンソン 日本の市民が核兵器によって脅威を受けることも、彼らを守るために使用することも望んでいないことを政策決定者に伝えなければならない。それは取りも直さず、米国の「核の傘」の下で生きることを望まないという意志を伝えることでもある。

 グラノフ 日本人には核兵器を拒否する道義的責務がある。それができるとき、日本人は世界中の人々に大きな貢献ができるだろう。


プロフィル

アラン・ウェアさん
 1962年、ニュージーランド生まれ。平和教育者、軍縮コンサルタント。国際平和ビューロー副議長、核不拡散・軍縮議員連盟の国際コーディネーターを務める。

パベル・パラシェンコさん
 1949年、ロシア生まれ。ゴルバチョフ財団メディア・国際問題担当顧問。1985年からゴルバチョフ元ソ連大統領の専属通訳として、米ソ首脳核軍縮交渉などに立ち会う。

レベッカ・ジョンソンさん
 1954年、英国生まれ。軍縮問題専門の「アクロニム研究所」所長。国際大量破壊兵器委員会顧問、中堅国家構想の専門相談役を歴任。軍縮ジャーナル誌の編集長も務める。

ジョナサン・グラノフさん
 1948年、米国生まれ。ペンシルベニア州にある核問題専門シンクタンク「グローバル・セキュリティー・インスティテュート」所長。弁護士。国際的平和活動家でもある。

(2010年11月22日朝刊掲載)

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