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社説・コラム

コラム 視点「ノーベル平和賞受賞者世界サミット 被爆地に勇気与え、課題を提示」

■センター長 田城 明

 「私たち市民の力で核兵器はなくせる」「広島は私たちにとって聖なる場であり、核兵器のない世界を目指す模範的役割となることを称賛する」…。

 ノーベル平和賞受賞者世界サミットの会場となった広島市内のホテルや平和記念公園へ出かけ、6人の歴代受賞者や受賞団体代表らの生の声を聞いた多くの市民は、鼓舞され、勇気づけられたことだろう。同時に、被爆地広島への期待がいかに大きいかも感じ取ったに違いない。

 被爆地に集ったノーベル平和賞受賞者は、いずれ劣らぬ信念の人。笑みを絶やさぬ北アイルランドの平和運動家メイリード・マグアイアさんは、広島訪問前にパレスチナ人の人権擁護のためにイスラエルを訪問。空港で入国を拒否されたのは「違法」と抗議すると拘束され、独房に1週間余も閉じ込められていた。イランの人権活動家で弁護士のシリン・エバディさんは、母国の人権政策への批判などから、政府からあたかも犯罪者のように扱われ、ヨーロッパへの講演旅行を機に帰国できぬままの状態が続く。

 自国のアパルトヘイト(人種隔離)政策廃止を進め、開発製造した6個の核弾頭の解体を命じた元南アフリカ共和国大統領のフレデリク・デクラークさん。「核の番人」とも称される国際原子力機関(IAEA)で、核拡散防止に努めた前事務局長のムハマンド・エルバラダイさん。チベット仏教最高指導者のダライ・ラマ14世は、あらゆる機会に非暴力での紛争解決の重要性を訴え続ける。

 対人地雷禁止条約の成立に貢献した米国の平和運動家ジョディ・ウィリアムズさんは、「政府に任せていては駄目。市民が動かなければ核兵器廃絶は実現しない」と何度も力説した。自身の体験に裏打ちされた言葉は、易しいようで重い。

 核保有国に任せたままでは、廃絶までに何年かかるか知れない。軍縮が進まぬうちに核保有国がさらに増え、核テロなど予期せぬ核兵器使用の可能性も一層高まるだろう。

 核兵器の非人道性を明確にし、使用も核による脅迫も、保有そのものも国際法違反にしようという核兵器禁止条約。今回の世界サミット会議では、国連の潘基文(バンキムン)事務総長も支持する同条約の成立に向け、有志国政府や市民社会などが連携して早期に実現させようとの考えで一致した。

 海外からの参加者たちは、異口同音に、核戦争の惨禍を身をもって体験した被爆者による証言の重みにも触れた。「被爆者の声を世界に広げることが核廃絶につながる」とし、そうした努力を長年続けてきた日本被団協に平和特別賞を授与し、敬意を表した。

 会議には、同じ志をもった人たちが結集した。市民との一体感も感じられた。私たち受け入れ側は勇気をもらい、受賞者らもあらためて被爆地に接し、帰国後は新たな思いで核兵器廃絶運動などに取り組むだろう。

 ただ、世界を取り巻く状況は、決して楽観を許さない。中間選挙で大敗したオバマ民主党政権下の米国では、核軍縮に反対する勢力が巻き返しを強めている。足元の日本でも、米国の「核の傘」からの脱却どころか、軍備増強や日米軍事同盟に一段と傾斜した、民主党内閣初の新防衛大綱がまとめられようとしている。

 ノーベル平和賞受賞者らに称賛してもらえるほど、被爆地の声は国内でも理解されていないのだ。私たちはそのことを自覚したうえで、何をすればヒロシマ・ナガサキの精神が国内に、そして世界に広がるのか、一人一人が考え、行動に移していかねばならないだろう。それこそが、今回の世界サミットが私たちに残した課題である。

(2010年11月22日朝刊掲載)

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