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社説・コラム

社説 核廃絶への道 被爆国が率先して動け

 オバマ米大統領が登場した2年前、「核兵器のない世界」への機運が一気に高まった。今、その流れは蛇行を始めたように見える。

 理由の一つが、北朝鮮の核開発をはじめ東アジアで相次ぐ不穏な動きだろう。核兵器廃絶を唱える悠長な状況ではない、といった声さえ聞こえてくる。

 新年早々、中国軍の内部文書が明るみに出た。報復攻撃に限って核を使う「先制不使用」政策を見直し、非常時には真っ先に核攻撃することも検討するとの内容だ。

 対抗してか、ゲーツ米国防長官が新たな軍拡の方針を口にした。核兵器を搭載できる新型長距離爆撃機の開発に力を注ぐという。  このままオバマ氏の核なき世界構想も色あせるのだろうか。

 米国とロシアの核軍縮条約「新START」の発効が近いとはいえ、なお両国の核弾頭は地球を何度も滅ぼす威力がある。英国やフランスも核戦力を温存する。インドとパキスタンは核ミサイルを向け合い、核保有が確実なイスラエルも中東との和解が進まない。

 むしろ北朝鮮やイランのウラン濃縮に象徴されるように、核拡散の懸念は強まっている。

 拡散を防ぐ国際ルールさえおぼつかない。包括的核実験禁止条約(CTBT)は発効の見通しが立たないまま。核兵器原料の高濃縮ウランやプルトニウムの生産禁止条約交渉も遅れている。

 非保有国や平和団体の多くが、核兵器の製造や使用をすべて違法化する核兵器禁止条約への支持を呼び掛けるのは当然だろう。事態打開を図る切り札として潘基文(バンキムン)国連事務総長も賛同している。

 ところが、水を差しているのがほかならぬ被爆国日本だ。

 昨年末の国連総会。マレーシアなどが提案した核兵器禁止条約の交渉開始や締結を促す決議が賛成多数で採択された。だが、日本は例年同様に棄権した。

 保有国の理解を得ながら現実的な核軍縮を重ねることが重要、との理由である。その論理は従来の自民党政権と変わらない。「核兵器廃絶の先頭に立つ」と明言した菅直人首相は、言行不一致のそしりを免れまい。

 廃絶に弱腰な政府の姿勢は、国民意識の反映でもあろう。東アジアの不安定を理由に、米国の核抑止力に頼ろうとの声が足元でじわり広がる。

 だからこそ今、非核外交を根底から見直すべきではないか。ヒロシマ、ナガサキの被爆体験を原点に、果敢に主張し行動しなければ、廃絶はさらに遠のこう。

 6カ国協議を見ればわかるように、東アジア地域の安定を図る多国間対話は容易ではない。だが非核地帯の創設といった共通目標を設ければ対話の糸口にもなるはずだ。現状に手をこまねくより、日本が率先して提唱してはどうか。

 平和構築の先頭に立つためにまず非核三原則を法制化し、米国の「核の傘」から抜け出す道へ歩を進めるべきだ。軍事面の協力強化ばかりが日米同盟の「深化」なのか、再検討の好機でもある。

(2011年1月8日朝刊掲載)

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