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社説・コラム

コラム 視点「海外での被爆証言活動・原爆展に政府の財政支援を」

■センター長 田城 明

 年の初め、証言活動に関わる数人の被爆者の声を聞く機会があった。思うほどに進まぬ世界の核軍縮。危うさを増す核拡散や核テロ。被爆国としての指導力を発揮できぬ日本政府…。こうした状況に、よわいを重ねる被爆者たちは、一様に不安と焦燥を抱く。だが、諦めや絶望を口にする人は、一人としていない。

 23日から約3カ月、非政府組織(NGO)ピースボート主催の「ヒバクシャ地球一周 証言の航海」に参加する広島・長崎の被爆者8人も、同じ思いなのだろう。被爆2世1人も加わり、大型客船で核保有国のインドや、核拡散が懸念される中東地域のエジプト、リビア、国連総会で核兵器禁止条約の提案国となったマレーシアなど16カ国18都市に寄港して現地の人々と交流。被爆体験や戦後の生きざま、今の思いを語る。

 「原子爆弾がどれほどむごい兵器か、戦争がいかに残酷か、子どもたちにも分かるように自分なりに伝えてきたい」(山中恵美子さん、76歳、呉市)

 「核兵器をなくすには、一人一人が声を上げて大きな声にしていく以外にない。目には目を、歯には歯を、では核兵器も戦争もなくならないという、原爆の悲惨な体験から学んだ和解の心の大切さも伝えたいと思っとります」(平井昭三さん、81歳、広島県府中町)

 「国民義勇隊として建物疎開作業で広島市内へ向かった母親はまだ見つかっていません。私自身のつらい体験を語る以上に、きれいな地球を守るために、みんなが譲り合ったり協力したりする必要があることを訴えたい」(高橋節子さん、76歳、千葉県船橋市)

 それぞれに体力や気力に衰えを感じながら、それでも「最後の力を振り絞って」やり遂げたいと言う。

 昨年8月、菅直人首相は「核兵器使用の悲惨さや非人道性、平和の大切さを世界に発信していただきたい」と、被爆者を日本代表の「非核特使」とする委嘱制度を設けた。今回も被爆者ら9人全員に「非核特使」の委嘱状は出たが、とりたてて支援があるわけではない。

   本当に必要なのは、被爆者団体やNGO、広島・長崎両市などと連携して非核特使を派遣したり、原爆展を開いたりするための恒常的な「仕組み」をつくり、政府として財政支援をすることである。

 内憂外患を抱える菅首相に今、それを考える余裕はあるまい。しからば被爆者団体やNGOなどが一体となって、政府や議会に仕組みづくりを積極的に要求すべきであろう。「非核特使」を単なる形式に終わらせてはならない。

(2011年1月17日朝刊掲載)

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