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社説・コラム

天風録 「見えない恐怖」

■論説委員 山内雅弥

 突然の爆発に続き、木っ端みじんの破片もろとも煙がわき上がる。巨大地震で停止した東京電力福島第1原発の1号機。建屋が吹っ飛んだ瞬間の映像に息をのみながら、思い出した言葉がある▲「チャイナ・シンドローム」。露出した炉心が溶けて地中に沈み込み、やがて地球の反対側の中国に達する―。原発事故の深刻さを描いた32年前の映画の題名である。同じ年に米国で起きたスリーマイルアイランド原発事故を「予見」したとされる▲おととい爆発が起きた1号機では、国内の原発で初めて炉心溶融が起きたという。きのうは3号機でも炉心を水で冷やせなくなる事態に陥った。一時、燃料棒が水面の上にむき出しになったようだ。こんなトラブルの連鎖は一日も早く打ち止めにしてほしい▲史上最悪の原発事故といえば、旧ソ連のチェルノブイリ事故だ。原子炉が暴走して爆発し、大量の放射性物質をまき散らした。事故から5年後、広島の医師に同行して周辺の小さな村を訪ねたことがある。子どもたちの不安な表情が、今も目に焼き付いている▲福島の被災地では、住民の一部が被曝(ひばく)していることが明らかになった。万一に備えて広島大の緊急被曝医療チームも現地入りした。この事態を何とか切り抜けてほしい。世界中が見守っている。

(2011年3月14日朝刊掲載)

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