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社説・コラム

社説 福島第1原発の危機 全力挙げて暴走止めよ

 東日本大震災に見舞われた東京電力の福島第1原発が、ついに危機的な事態を迎えた。

 きのう2号機や4号機で爆発や火災が相次ぎ、一時は人体に影響するほどの強い放射能が敷地内に漏れた。南向きの風に乗り、首都圏の各地でも微量が観測された。

 燃料棒の大半が溶けて核反応が止まらなくなるメルトダウン(全炉心溶融)の懸念は解消されていない。高濃度の核物質が一気に拡散すれば1986年のチェルノブイリ事故に迫る原発災害になる恐れがある。

「最悪」に備えを

 菅直人首相は既に指示した半径20キロ以内の全員避難に加え、20~30キロ圏の住民にも屋内退避を求めた。住民の負担や不安は大きかろうが、最低限の措置と言えよう。

 さらに最悪の事態も想定し、一段と踏み込んだ対応を早急に準備しなければなるまい。

 地震発生以降、状況は日に日に悪化している。とりわけ2号機の損傷は衝撃的だった。

 前日から水位が下がり、燃料棒がむき出しになる状況が続いていた。きのうの爆発により「圧力抑制プール」の一部が壊れたようだ。原子炉の格納容器につながる設備で、内部の放射線濃度は高いとみられる。

 作業員の多くが一時退避したのも仕方なかろう。

 さらに定期検査のため地震発生時には運転を止めていた4号機で火災が起きた。使用済み核燃料を入れておく建屋内のプール周辺で水素爆発が発生した可能性が高いという。

 使用済み核燃料の冷却も不十分とすれば、損傷して放射性物質が漏れだす恐れがある。

 こうした混乱のなかで、敷地内では毎時400ミリシーベルトの放射線量が観測された。1時間浴び続ければ急性障害を引き起こすレベルだ。

 周辺住民のショックも大きいだろう。地震での被災に加え、避難や屋内退避を余儀なくされた。避難中に被曝(ひばく)した人もいる。

 住民の放射線量を計測して健康をチェックする体制の強化が欠かせない。避難がいつまで続くかも不透明なだけに、不安を和らげるメンタルケアが必要だろう。

 マスクをしたり肌の露出を控えたりすれば、放射能汚染の影響を弱めることができる。冷静な行動を呼び掛ける広報活動も不可欠だ。

 放射能による災害が一層広がる事態への備えは十分とは言えない。防衛省などにもノウハウはないという。避難範囲が拡大した場合、どこにどう受け入れるかなど、国や自治体が詰めるべき課題は少なくない。

 被曝者の治療態勢を整えておくことも重要だ。広島大は現地に医師を派遣し、重症者を広島まで空路搬送して受け入れる準備を済ませた。12年前の茨城県東海村臨界事故でも支援に当たった経験を生かしたい。

足らぬ情報開示

 住民の立場からすれば、最も気になるのは政府や東電などの情報開示が心もとないことだ。

 地震翌日の1号機の水素爆発の公表が大きく遅れたのをはじめ、これまでの対応は後手後手に回ってきたと言わざるを得ない。きのうも4号機の火災を首相が公表したのは、発生から1時間半たってからだった。

 これまで首相のほか枝野幸男官房長官や原子力安全・保安院、東電がそれぞれ記者会見してきた。きのうになって政府と東電の対策統合本部が発足した。

 しかし会見のやり方に変化は見られない。情報を一元化したうえで敏速かつ包み隠さず伝えているようには思えない。

 何より住民が知りたいのは身の回りの放射線量である。東電が常時測定している原発周辺の計測値をリアルタイムで出していないのは疑問だ。福島県などもデータを集めている。もっと積極的に示してほしい。観測地点を増やす必要もあろう。

 東電の作業員の手で核燃料を冷却する海水注入の作業は続いている。しかし、このまま原子炉が安定して制御できるのかどうか、依然として見通せない。

 もはや日本だけの問題ではなかろう。国際社会が関心を寄せている。米国や国際原子力機関(IAEA)は支援要員を派遣するという。国内外の知恵と技術を結集し、事態収拾へあらゆる策を尽くしたい。

(2011年3月16日朝刊掲載)

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