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社説・コラム

天風録 「決死の闘い」

■論説委員 小川伸夫

 「灰の詰まったヒョウタン」という言葉が、米国の先住民ホピ族の伝承にある。西部の荒野を地球の心臓と呼び、「決してえぐり出すな」と言い伝えてきた。しかし、地下からウランが掘り出され、原爆が造られた▲それを米軍機が広島と長崎の市民の頭上でさく裂させ、あまたの尊い命が犠牲となった。人類は死の灰をまき散らすヒョウタンの危険性を目の当たりにする。同時に、原子の威力をなだめながら取り出すすべを手にした。平和利用と呼ばれる原子力発電だ▲福島第1原発で今、原子力の「暴走」を食い止める懸命の闘いが続く。骨組みだけになった建屋の中で過熱する燃料棒をいかに冷やすか。きのうは自衛隊ヘリが水を投下した。見たことのない異様で切迫した光景に思わず息をのんだ▲見えない放射線との闘いでもある。特殊な防護服を身にまとった作業員たちが構内にとどまる。文字通り身をていしての奮闘だ。放射線を浴びて病院へ運ばれる人も出ている。避難や屋内退避を強いられた周辺住民の不安は察するに余りある▲夜になって放水車も駆り出された。近づけない原子炉の建屋内で何が起きているのか。鎮まってくれと祈らずにはいられない。空から陸からあらゆる手だてを尽くし、ヒョウタンを割らせてなるものか。

(2011年3月18日朝刊掲載)

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