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社説・コラム

社説 放射能と農産物 風評防ぐ十分な監視を

 福島第1原発事故による放射能漏れで、農産物に影響が出始めた。政府は食品衛生法の暫定基準値を超す放射性物質が検出された野菜などに対し、出荷を止めるよう指示した。

 基準値以上の物を市場に流通させない判断は「食の安心安全」を守る上で当然である。監視態勢を強め、土壌や農業用水も含めた正確な測定と情報提供が必要だ。

 同時に、見えない放射能への不安の広がりと風評被害をどう防ぐかが課題である。食品流通など業界関係者や消費者も冷静な判断と行動が求められる。

 出荷停止になったのは福島、茨城、栃木、群馬県のホウレンソウとアブラナ科のカキナ、福島県の原乳だ。これまでは基準値を超えた生産農家だけが対象だったのを、今回は県全体を対象とするなど規制を広域化させた。

 露地栽培の葉物への影響は予想されていた。原乳の汚染原因はまだ十分に分かっていない。被害を防ぐため農林水産省は近県の畜産農家に対し、屋内保管した飼料を使うことや家畜の飲み水の貯水槽にふたをするなどの指導をした。

 暫定基準値は、放射能を帯びた降下物が食べ物を通じて体内に取り込まれる内部被曝(ひばく)を防ぐために定めている。小さな子どもを基準に低く設定された数値である。基準を超えた食べ物を何度か口にしたからといって健康に影響はないというのが専門家の見方だ。

 一方、チェルノブイリ原発事故の際は、食品などから放射性ヨウ素を取り込んだ子どもたちに甲状腺がんが多発した。放射能汚染の程度が今回よりはるかに大きいなど単純比較は難しい。ただ、長期にわたり基準値を超えた食品の摂取を続けた場合、子どもへの影響を懸念する声もある。

 本来、暫定基準値は輸入品を対象にしている。国内で今回のような事態は起きないと思っていたのか、国の対策は立ち遅れていた。当面は暫定値を使うとしても、国産農産物に対する放射能汚染の基準作りを急ぐべきだ。

 今後も出荷を止められる農産物が増える可能性がある。特に、露地栽培の葉物には放射性物質が降り積もりやすい。ただ土中の根菜類など影響を受けにくい作物まで同一視するのは問題だろう。

 ところが首都圏のスーパーが茨城県産の農産物を一時撤去するなど過剰反応も起き始めた。卸売市場で対象品目以外の仕入れを控える動きも出ている。

 風評被害を抑えるためには、国の責任で流通をきちんと規制し、安全な食品が流通する仕組みを維持すべきである。測定値の定期的な公表はもちろん、数値が持つ意味についてリスクの観点から分かりやすく説明してほしい。

 消費者も落ち着いて行動したい。基準以下でも気になれば、洗ったり皮をむいたりすることで放射性物質の摂取は軽減できる。

 食の安全を貫き、しかも農家を泣かさないために、それぞれの立場でどうすればいいか。国民全体が試されている。

(2011年3月23日朝刊掲載)

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