×

社説・コラム

社説 収束見えぬ原発事故 ヒロシマの経験を力に

 東日本大震災の発生から半月。大地震と大津波に加え、東京電力福島第1原発の事故による放射線被曝(ひばく)の恐怖が人々をさいなむ。

 地震で自動停止した福島第1原発。原子炉6基のうち4基で炉心の一部溶融や水素爆発、火災などのトラブルが次々に起こった。

 漏れた放射性物質が大気中や海洋、土壌へまき散らされている。放水口付近の海水からは法令が定める濃度限度の1250倍の放射性ヨウ素が検出された。

 1~3号機の事故は、0~7まで8段階ある国際評価尺度のうち上から3番目の「レベル5」とされる。ただ専門家の間では1986年に起きた旧ソ連のチェルノブイリ原発事故(レベル7)に迫るとの見方も強い。

 菅直人首相が認めるように、いまだ状況は予断を許さない。国内ではかつて経験したことがない原子力災害である。

 放射能を封じ込めるには、一日も早く原子炉の冷却機能を回復させることが不可欠だろう。しかし放射能に汚染された施設内での作業にはおのずと限界がある。

 長期戦は避けられまい。汚染も相当の期間に及ぶことを見据えた上で、被曝を最小限に食い止めるための戦略を練り直さなければなるまい。

 それには原発で復旧工事の最前線にいる作業員、周辺住民、それ以外の一般住民のそれぞれに応じた対策が不可欠である。

 24日に3号機で下請け会社などの3人が水たまりで被曝し病院に搬送された。東電はもとより任せきりにした国の責任も免れまい。安全確保の徹底と万一に備えた医療態勢の整備が急がれる。

 周辺地域の住民にも不安が広がる。政府は避難指示した半径20キロ以内の住民に加え、20~30キロ圏の住民にも自主避難を呼び掛けた。屋内退避のエリアとしていたが、物資不足などで生活が難しくなっていることが背景にあるようだ。

 ただ放射性物質の拡散は一様ではない。あいまいな根拠で指示を出すのは、かえって混乱を助長するだけだ。むしろ必要なのは、迅速な情報提供と住民の健康不安に向き合う仕組みだろう。

 一方、首都圏など一般住民には今のところ健康被害が生じる心配はないようだ。正しい知識を伝えることが鍵になる。

 危機的な状況が長引くにつけ、要になるべき政府の原子力安全委員会の動きの鈍さが気になる。

 放射性物質の広がりを予測した結果をやっと公表したのは23日。米エネルギー省が独自のデータを公表した後だった。専門家の独立機関だけに、もっと積極的に役割を果たすべきではないか。

 事故後、広島大の緊急被ばく医療チームが現地に入り、活動を続けている。多くの作業員が高線量被曝を受けた場合、三次被曝医療機関の広島大でも受け入れる。

 広島が培ってきた被爆者医療の経験は、チェルノブイリ事故の被災者たちに大きな励ましとなった。地道な支援が福島の人たちの力になればと願う。

(2011年3月27日朝刊掲載)

年別アーカイブ