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社説・コラム

『潮流』 原発事故 重い問い掛け

■論説委員 杉本喜信

 使用済み燃料プールは澄んだ水をたたえ、照明を浴びてキラキラと輝いていた。

 昨年、青森県の下北半島の原子力発電所を見学した。

 直下型地震を想定した耐震設計や非常用の炉心冷却装置…。何重もの安全対策について説明を受けた。津波への備えを質問すると「最大想定は6.5メートル」との答えが返ってきた。

 それから半年後に起きた東日本大震災と福島第1原発事故。気になって、訪れた原発に電話を入れてみた。

 津波は3メートル足らずで無事だったという。「ただ福島のことが気掛かりで…」。口ぶりから衝撃の強さが伝わった。

 政府や電力会社が「ありえない」としてきた大量の放射能漏れが相次いでいる。積み上げてきた「安全」や「信頼」が音を立てて崩れるかのような毎日だ。

 日本で原子力発電が始まって40年余り。既に全電力のほぼ3割を賄う。比較的少ない中国地方に限っても1割近い。

 原発についてはこれまでも推進と反対の議論が対立してきた。しかし大多数の国民は、あまり関心がなかったのではないか。

 エネルギー政策の見直しは避けられまい。問題は長期的な視点に立ってどうするかだ。

 安全性やあらゆるコストの情報公開を進めた上で、幅広い議論が要ろう。原発への依存を続けるのか、太陽光やバイオマス発電などの再生可能エネルギーにシフトするのか。考える時だ。

 下北半島では風力発電のプロペラも盛んに回っていた。

 電力消費を抑え、危険や環境への負荷が小さい発電方法に目を向けることも一つの選択肢だろう。ひたすら快適さや便利さを追い求めてきた暮らしも見直したい。

(2011年3月30日朝刊掲載)

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