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社説・コラム

社説 島根・上関原発の今後 「安全」の抜本見直しを

 深刻な事態が続く東京電力福島第1原発の事故。強い毒性を持つプルトニウムが検出されるなど放射能漏れに歯止めがかからない。  事故は全国の原発を抱える自治体に大きな衝撃をもたらした。

 中国地方では稼働、増設中の島根原発(松江市)に加え、上関原発(山口県上関町)の新設計画が進む。地元に不安や反発の声が広がりつつあるのは当然だろう。

 しかし中国電力の山下隆社長はおとといの記者会見で「(原発の)建設計画を進める方針に変わりはない」と述べた。

 法律に基づいて国に提出する2011年度の電力供給計画の説明に合わせての発言である。地元への説明を強化する考えを強調してはいたものの、福島第1原発の事故が続いている最中だけに、違和感を覚えざるを得ない。

 中電は島根原発の津波対策として、海抜約40メートルの高台に緊急用の発電機を設置するなどの防災工事を加え、万全を期すとしている。

 とはいえ、それで地域住民の不安が一掃できると考えるのは早計にすぎよう。県庁が10キロ圏内に入る異例の近さである。

 2006年の国の原発耐震指針変更に伴って、島根原発近くの活断層を従来の倍以上の22キロに見直した。それも大学の研究者などからの再三の指摘を受けてやっと腰を上げた感が強い。

 とりわけ地域が心配するのは島根2号機に14年度からプルトニウム・ウラン混合酸化物(MOX)燃料を使うプルサーマルの導入を予定していることだ。

 事故を起こした福島3号機では既にMOX燃料が使われていた。3号機からかどうかは不明だが敷地からプルトニウムが検出される事態も明らかになっている。

 中電が「今後、議論があるだろうが粛々と進める」との方針を掲げても、おいそれと受け入れることはできまい。

 埋め立て工事を再開したばかりの上関原発の場合はどうか。

 山口県の二井関成知事は「原発の安全確保について検証ができる前に、埋め立て工事を進めてはいけない」ときっぱり言明。これまでにない踏み込んだ表現で工事の中断を求めた。

 30キロ圏内には上関町はもとより、柳井市や周防大島町なども含まれる。知事の強い発言の後ろには多くの住民が抱いている懸念があると受け止めるべきだろう。

 菅直人首相はきのうの参院予算委員会で、福島第1原発を廃炉にする可能性に言及した。原発の津波対策についても「結果として大きく間違っていたことは否定しようがない」と不十分だったことを認めた。

 安全対策だけでなく国の原発政策そのものが見直しを迫られていると見て間違いなかろう。

 何よりもまず、政府や電力各社の総力を挙げて原発事故の収束に取り組まなければならない。その上で今回の事故の徹底的な検証が求められる。それまでは最低限、プルサーマルや新増設の計画を凍結すべきである。

(2011年3月30日朝刊掲載)

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