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社説・コラム

天風録 「町ごと避難」

■論説委員 岩崎誠

 段ボールで仕切られた通路の一角。じっと目を閉じたお年寄りの顔には疲れがにじんでいた。福島県双葉町の被災者が身を寄せた、さいたまスーパーアリーナを訪ねた。周りで元気に遊ぶ子どもたちの姿に少しほっとした▲大地震に大津波、放射能漏れ。福島第1原発の膝元の町は三重苦に見舞われた。役場と一緒に1300人が避難。原発で懸命の作業に当たっている人の家族もいると聞いた。事態が収まる見通しがないだけに、心労は察するに余りある▲折れそうな気持ちを支えようと、アリーナに詰めかけたボランティアも目にした。「困ったことはありませんか」と声を掛けて回る高校生。教員OBたちは手作りの教材で「授業」を開いた。全体が人のぬくもりに包まれているようだった▲三宅島のことを思い出す。11年前の噴火で3千人以上が島外へ。避難指示が解かれた4年半後、大半が帰島を果たした。全国各地に散り散りになっていた島民たち。守り抜いた互いの絆がたぐり寄せたのだろう▲双葉町民の思いも同じに違いない。きのう引っ越しを始めた次の避難所は埼玉県加須(かぞ)市の元高校。周りに田んぼがある光景はどこか地元と似ているという。「旅の終わりは家に帰ること」という町長の願いがかなう日はきっと来ると信じたい。

(2011年3月31日朝刊掲載)

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