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社説・コラム

社説 農産物汚染 土壌や水の監視強化を

 丹精込めて育てた野菜をむざむざ畑に放置しないといけない。無駄になると分かっていて毎日、牛の乳を搾らざるを得ない。

 福島第1原発の事故で福島、茨城など4県の農産物から放射性物質が検出され、出荷停止が続く。農家にとっては生き地獄も同然だろう。食の安全にこだわってきた篤農家が自らの命を絶つ悲劇まで起きている。

 販売収入が途絶えれば農家の生活は立ち行かなくなる。原乳を出せなくてもかかる餌代。農家に対する補償を急がねばなるまい。

 補償の当事者は東京電力だが、原発事故や計画停電の対応に追われてそれどころではなかろう。政府が立て替える方向で調整に入った。農家の苦悩を考えれば手をこまねくことは許されない。

 市場の相場をみると出荷規制の対象ではないトマトやピーマン、レタスなどの関東産野菜も値下がり気味だ。風評被害が及んでいるようだ。農家にこれ以上の重荷を背負わせてはいけない。

 ところが検査機器が足りない影響もあって、調査する農産物の品目や件数に自治体でばらつきが見られるという。消費者が安心できるように汚染の度合いをきめ細かく検査し、漏れなく出荷規制をかける態勢を早急に確立する必要がある。国のリードが求められる。  一方で、出荷を止める範囲を見直す必要もあるのではないか。例えば福島県は東西160キロにも及ぶ。全県ひとくくりの規制では農家への影響が大きすぎよう。

 ハウス栽培の作物と露地物でも汚染程度は違ってくるはずだ。店頭に並ぶ農産物の安全性が求められるのはもちろんだが、十把ひとからげに出荷を停止してしまうことには疑問が残る。

 田植えや作付けの時季が迫る。原発事故が長引けば、放射性物質による土壌汚染も無視できなくなる。場合によっては土壌の入れ替えも必要だろう。そうした見通しも含めて国が示さなければ農家の不安は増すばかりだ。

 折しも国際原子力機関(IAEA)が福島県飯館村で行った土壌調査で、IAEAの基準を超す数値が出たという。飯館村の大半は原発から20~30キロの屋内退避区域よりも外側に当たる。

 1カ所だけの測定結果であることから枝野幸男官房長官は「直ちに健康被害はないが、長期にわたる場合を検討しなければならない」としている。

 農林水産省は水田約150カ所の土壌を調べ、田植えが可能かどうかの基準を示すという。調査地点の数はこれで十分といえるだろうか。畑や農業用水も対象に加えるべきである。

 「機器や人手の関係で150カ所が限界」という農水省の言い訳は本末転倒である。他省や海外の支援を仰ぐことも考えられよう。  放射性物質の拡散には風向きや降雨、地形などが影響するという。調査エリアを綿密に選ぶとともに継続的な観測が必要だ。汚染の長期化も念頭に置き、早め早めに手を打つ姿勢が欠かせない。

(2011年4月1日朝刊掲載)

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