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社説・コラム

天風録 「被爆者の民間療法」

■論説委員 山内雅弥

 「放射能で首都圏消滅」「内部被曝(ひばく)の脅威」「お母さんのための放射線防護知識」―。きのうの読書面に載った東京のベストセラーを見て驚いた。放射能や原発関連の5冊がベスト10に。福島第1原発と200キロ以上離れていても気遣う人が多いようだ▲チェルノブイリ原発事故の5年後に訪れたウクライナの首都キエフもそうだった。原発から150キロ、汚染地区ではない。市場の牛乳や肉、野菜は毎日検査しているという。それでも「子どもたちの健康が心配」との声をあちこちで耳にした▲放射性物質は目に見えない。福島原発の事故でも汚染が周辺地域の土壌や野菜、海へと広がっている。「ただちに健康に影響するレベルではない」と繰り返されても、地元のもどかしさが募るのは無理もない▲医薬品が欠乏していた被爆直後の広島、長崎。民間療法で生き延びたとの体験談もある。ドクダミを煎じて飲み続けたり、ナスのみそ漬けや梅干しを食べたり…。現代医学では説明できないが、被爆者が身をもって実践した養生法ともいえよう▲そんな経験とともに、特産のみそや梅干しを福島の被災地に送る市民の活動が始まっている。チェルノブイリ支援にも取り組んできた府中市の「ジュノーの会」。かの地でヒロシマの知恵が役立てばと願う。

(2011年4月4日朝刊掲載)

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