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社説・コラム

社説 福島第1原発の水放出 座視できない海の汚染

 東日本大震災で被害を受けた福島第1原発。3週間以上たっても事故が収束する兆しは見えない。

 東京電力は放射性物質を含んだ水1万トン以上を海に放出し始めた。「禁じ手」にまで追い込まれたことが事態の深刻化を物語る。

 原子力安全・保安院によると、2号機のタービン建屋の地下などにある汚染水は推定約6万トン。1立方センチ当たり1千万ベクレル以上という極めて高濃度のものもある。

 この水を移送、保管する場所を確保するために集中環境施設などにたまっていた比較的低い濃度の汚染水を海へ放出するという。玉突き作戦である。

 とはいえ、これまでは放射性物質を環境中に出さないよう封じ込めに全力を挙げてきた。百八十度の方針転換にもかかわらず、説明が尽くされたとは言い難い。

 タービン建屋内の地下や建屋外の立て坑に放射性物質を含んだ水が大量にたまった。もとはといえば津波被害に加え、原子炉や使用済み燃料プールを冷やすために注入を続けている水だ。

 一部が取水口近くのピットに生じた亀裂から海に流れ出していた。セメントや高分子ポリマー、おがくずで止めようとしたが、目立った効果はなかった。

 排水が問題になることは当初から分かっていたはずである。場当たり的な対応を繰り返してきた東電・政府の責任は免れまい。

 現在も1~4号機は外部からの注水による冷却作業が続いている。汚染した水を増やさないようにするには原子炉や燃料プールの冷却機能を働かせる電源の回復が欠かせない。だが、めどは全く立っていない。

 きのう枝野幸男官房長官は「より大きな被害を防ぐための相対的措置として了とした」と述べた。人工の浮島「メガフロート」や仮設タンクに移すまでの非常手段と考えているようだ。

 全炉心溶融―原子炉爆発という最悪のシナリオを食い止めるためには、海への一部放出もやむを得ないと判断したのだろう。  一方で汚染水を海に放流すれば漁業への影響は極めて重大だ。魚の暫定基準値が急きょ設けられたのは、茨城県沖で採れたイカナゴから高濃度の放射性ヨウ素とセシウムが検出された後だった。

 水揚げを市場に拒否されるケースも出ている。汚染された魚が出回らないようにするのはもとより、風評被害も含め漁業者への補償に万全を期してもらいたい。

 海の放射能汚染の広がりや食物連鎖による濃縮の実態は、十分に分かっていない。海水や魚介、プランクトンについて広域的な監視態勢を整えるべきだろう。

 フランスの放射線防護原子力安全研究所(IRSN)が公表した海洋汚染の予測によれば、必ずしも四方に拡散せず、沿岸から黒潮に沿うように移動するという。こうしたデータさえ日本政府が発表しないのは不可解極まりない。

 海の汚染を最小限にするためにも、事態の収束に向け国内外の英知を結集しなければならない。

(2011年4月6日朝刊掲載)

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