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社説・コラム

「フクシマ」世界も注視 危機脱出へ英知結集を

■ヒロシマ平和メディアセンター事務局長 難波健治

 東京電力福島第1原発で予断を許さない事態が続いている。津波による電源の喪失をきっかけに、水素爆発や火災、放射性降下物の広い地域への拡散が続く。屋外の水や海水、地下水まで高い線量の放射性物質に汚染されていることも確認された。圧力容器の温度や圧力などに一進一退はあるものの安定はせず、危機の進行を食い止められているとは言い難い。いったい福島原発で何が起きているのか。世界も「フクシマの核危機」を注視している。被爆国で起きた大規模な核被害をこれ以上広げないために、私たちには今、あらゆる英知を結集することが求められている。

内部被曝-ヨウ素131の場合

甲状腺付着 がん原因に 外部許容量未満も危険

 3月19日夜、東京・大手町にある東京消防庁本部。この日から福島第1原発3号機への連続放水を始めた緊急消防援助隊の幹部3人が記者会見した。

 その場で、総隊長の佐藤康雄警防部長は「現場で大いに注意したことが二つある」と次のように説明した。「まず第一に呼吸管理。放射能汚染で一番怖いのは体内被曝(ひばく)だからだ」「そのため、2キロ手前から全員が呼吸器を装着し、現場に向かった」

 この発言を聞いて驚いた人がいるかもしれない。なぜなら「体内被曝」は、「外部被曝」に対して「内部被曝」とも言い、最近の原爆症認定訴訟などでは、政府と原告側被爆者との間で大きな争点になってきた。「官」の側が公にはあまり認めたがらない考え方だからだ。

 広島大原爆放射線医科学研究所(原医研)の鎌田七男元所長は「放射線障害には二つのタイプがある」と説明する。放射性物質から離れれば離れるほど線量が下がり、影響が少なくなるのが外部被曝。ところが、口や鼻から体内に放射性物質を取り込む内部被曝になると、話は一変する。

 ヨウ素131を例に取ろう。ヨウ素はベータ線を放出する。ベータ線は外部被曝だと、よほど近くで強力なものを浴びない限り人体に影響がない。しかし体内に入ると別だ。特定の器官に付着して遺伝子を攻撃し始める。ヨウ素の場合、ベータ線は甲状腺に集まり、がんを発生させる。

 このため、鎌田元所長は福島原発の事故で検出された放射線量について、外部被曝の許容量がそのまま内部被曝にもあてはまるかのように説明することは避けるべきだ、と指摘する。

 内部被曝の問題を重視した政府は30日、原発施設内のがれきや土壌に付着した放射性物質を含むほこりやちりを防ぐため、特殊な合成樹脂を散布する方針を決めた。また、ロボットなどを使った遠隔操作の検討も始めた。

 鎌田元所長と同じような視点から内部被曝を重視してきた矢ケ崎克馬琉球大名誉教授は、今回の事故は米国スリーマイルアイルランド原発事故(1979年)のレベルをはるかに超え、過去最大のチェルノブイリ事故(1986年)のレベルに近づきつつあるのではないか、と警告する。

 福島の事故がスリーマイルの事故レベルを上回っていることは、専門家の間でもほぼ異論はない。

 米エネルギー環境研究所(IEER)のアージャン・マキジャニ所長も、フランス放射線防護原子力安全研究所(IRSN)のデータ(3月22日までに福島原発が放出した放射性ヨウ素131は約240万キュリーでスリーマイル島事故の14万倍から16万倍)を基にそう主張している。米国を本拠とする国際科学安全保障研究所(ISIS)は「チェルノブイリのレベル7に近づきつつあるかもしれない」と発表した。

最悪のシナリオ-圧力容器破壊

1基起これば次々波及 冷却継続で回避は可能

 では、福島の原発事故現場で今、実際にどんなことが起きているのだろう。

 政府の原子力災害対策本部(本部長・菅直人首相)が公表している「福島第一・第二原子力発電所事故について」と題する報告文書(3月27日午前11時現在)を見ると、事故発生当初から危機的な事態が何度も繰り返されていたことが読み取れる。

 1号機では、最初の水素爆発が起きた12日午後の段階で圧力容器に水がなくなってしまい、炉心が完全に露出して核燃料を空だきする状態が1日以上も続いている。2号機でも14日の夕方に空だき状態が発生し、原子炉は止まっているのに圧力容器内の圧力が運転中とほぼ同じ程度に高まる異常事態になった。

 また震災当日の11日、2号機で原子炉への注水機能が失われたのを受けて原子力安全・保安院が、午後10時50分に「炉心露出」、11時50分「燃料被覆管破損」、12日午前0時50分「燃料溶融」というシナリオを描いていたことも記録されている。

 事故発生から3週間余り。小出裕章京都大原子炉実験所助教は、「何とか最悪の事態は防いでいる。これからも防ぎ続けられるかとなれば、私には確信がない」と語る。

 最悪の事態とは何か?

 「一つでも圧力容器が破壊されると、人は誰も現場にとどまれない。そうなると、他の原子炉も冷却できなくなり、次々と原子炉がつぶれていく。こうなると、間違いなくチェルノブイリ以上の惨劇です」

 原子力対策本部の文書は、作業員3人が被曝して治療を受けた3号機タービン建屋のたまり水の中に、ヨウ素やセシウムのほかに、テクネチウムやランタン、セリウムなどの放射性物質が含まれていたことを明らかにしている。

 ヨウ素やセシウムは揮発性が高く、炉心の溶融につながらない。しかし、テクネチウムなどの物質は核燃料が分裂しない限り、検出されない核種(原子核の種類)である。

 「最悪のシナリオ」を実現させないための手段は残されているのか。小出氏は「水をかけ、冷やし続けて炉を冷温停止(原子炉水温度100度未満)の状態にするしかない」と言い切る。

 とすれば、その対応に国の総力を挙げるしかない。被爆国に住む私たちは今、「フクシマの核危機」に立ち向かう試練にさらされている。

(2011年4月4日朝刊掲載)

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