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社説・コラム

天風録 「平和都市の市長」

■論説委員 永井利明

 「こうなったら全力をふりしぼってやらねばならぬ」。原爆の惨禍から2年後、広島市の初めての公選市長になった故浜井信三さんは、胸のたかぶりを自伝「原爆市長」に書き留めている。一方で「行く手に立ちふさがる山を前に、途方にくれる思いであった」とも▲壊滅した都市の復興は待ったなしだった。ただ立ち上がろうにも、どこから手をつけていいのやら…。そんな心境だったのだろう。財源もなければ人手もない。ないないづくしの窮状は、今回の大地震や大津波に襲われた被災地にも通じるようだ▲思案の末、浜井さんは3本柱に絞った。市政の民主化を進める、市民の暮らしを安定させる、都市の復興に努める―。平和記念公園や原爆資料館の建設をはじめ、いま目にしている平和都市の姿はこの時に構想された▲きのう、浜井さんから数えて7人目の広島市長に選ばれた松井一実さん。相通じるところもある。ともに出身は地元の広島市。自身が被爆者だった浜井さんに対し、松井さんは被爆2世だ▲昨夜の当選インタビューでは「地に着いた市民全体の平和運動をしていく」と力を込めた。「ヒロシマの市長として、市民の声なき声を忠実に世界に伝える」という浜井さんの言葉もある。先輩市長の志をしっかり受け継いでほしい。

(2011年4月11日朝刊掲載)

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