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社説・コラム

社説 福島原発レベル7 長期化見据えた覚悟を

 東京電力福島第1原発の事故について、原子力安全・保安院は国際評価尺度による暫定評価を最悪の「レベル7」に引き上げた。

 東日本大震災発生から1カ月以上過ぎてようやく事の重大さを認めた形だ。

 「放射性物質が大量に放出し、健康と環境に広範囲の影響がある」とされる。国内外の専門家の間では、放出量などから深刻さを指摘する声が強かった。

 枝野幸男官房長官も3月下旬、原子力安全委員会のメンバーからレベル7に相当するとの認識を伝えられていたという。

 もっと早く厳しい判断を下すべきではなかったか。避難指示区域を1日のうちに広げたり、屋内退避を長期間出したままにしていたり。これまでの場当たり的な措置は、政府の見通しの甘さと無関係ではあるまい。

 史上最悪だった旧ソ連のチェルノブイリ原発事故もレベル7である。ただ今回の放出量はその1割程度。住民にも大きな健康被害が出ていないと保安院は強調する。

 チェルノブイリは原子炉1基が爆発し、ほぼ10日で放出が止まった。一方の福島は4基がトラブルを起こし、収束のめどは全く立っていない。国民の不安や諸外国の不信が拭えないのは当然だ。

 政府と東電の対応は今もばらばらで後手に回ってばかりと映る。

 レベル7の目安にした推定放出量は保安院が37万テラベクレル(テラは1兆)に対し安全委は63万テラベクレル。大きな開きがあるのはなぜなのか。根拠を示すべきだろう。

 事故の影響を見極めるために欠かせない放射性物質の拡散予測データにしても、安全委は3月23日に公表しただけだ。より正確な見通しを立てるためにも継続的に発表する必要がある。

 保安院と安全委との関係が外部からは分かりにくい。

 政府の事故対策は経済産業省の組織である保安院が専ら担ってきた。ここにきて放射能の影響は農地や海洋にも広がっている。厚生労働省や農林水産省などとの連携が十分だったかどうか。

 専門家の独立機関として安全委は、保安院の判断をチェックするのはもとより、対策の中心的な役割を担えるはずだ。

 態勢の抜本見直しには時間がかかるにしても、当面は安全委にもっと権限を集中させてはどうだろう。安全確保の中枢として関係機関を束ねるべきである。

 何よりも原子炉を冷やし、放射線を閉じ込めなければならない。

 冷却システムを回復させるまでは、あらゆる手だてを駆使して水を注ぐ。敷地内の汚染水を極力封じ込める。余震に備えつつ、こうした作業を続けるほかなかろう。

 観測データを種類や量、影響の度合いを含めてきめ細かく公表しなければならない。同時に住民をはじめ農家、漁業者らに分かりやすい説明が要る。

 菅直人首相は原発が「安定化に向かっている」と述べた。長期化を見据えた覚悟が伝わってこないのが残念である。

(2011年4月14日朝刊掲載)

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