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社説・コラム

天風録 「日本敬遠」

■論説主幹 山城滋

 焼けただれた中学生の衣服に涙したのは、ロシア大統領になる前の故エリツィン氏だった。原爆資料館を訪れる外国人はたいてい、時間をかけ沈痛な面持ちで展示に向き合う。あの日の出来事を胸に焼き付け、自国に持ち帰っているに違いない▲東日本大震災を境に海外からの入館者が6割も落ち込んだ。日本を訪れる外国人が3月は半減した。それもこれも福島の原発事故の思わぬ余波である。事故の評価が最悪の「レベル7」に引き上げられ、風評のさらなる広がりが心配だ▲そんな中でも資料館に足を運んだ外国人の思いが対話ノートにつづられている。「ヒロシマ・ナガサキの歴史がある日本にすら原発があったとは」というオーストラリア人の驚き。胸元に投じられた真っすぐな球をどう打ち返すか▲「軍事、民生用を問わず核技術の危険性を認識する世界が来るよう祈る」との書き込みもあった。ヒロシマの犠牲の上に築かれた核時代。原子エネルギーが人類の頭上につるされた「もろ刃の剣」に映るのだろう▲海外では原発事故の誇大な報道が目立つという。日本国内での伝わり方を「扇情的でないのが印象的」と英国人は記す。放射能の影響について正しい情報を国外にどう広めるか。冷静な判断を促す被爆地の役割も見えてくる。

(2011年4月16日朝刊掲載)

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