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社説・コラム

コラム 視点 「無差別、広範囲におよぶ福島原発事故の影響」

■センター長 田城 明

 チェルノブイリ事故と同じ「レベル7」に引き上げられた福島第1原発事故の影響は、深刻である。駆け足でめぐった被災地はほんの一部にすぎないが、現地を訪ねての実感である。4基の原発からの放射性物質の放出は当分止まりそうになく、その影響は広がり続けるだろう。

 「震度5の余震だと、原発のことが一番気になる」。福島市内の果樹農家、渡辺忍さん(66)と妻の富美代さん(59)は、懸念を深めている。問題の原発施設が地震の影響を受けて、放出される放射線量が増えないか、それが心配なのだ。原発から北西へ約60キロ。遠くに吾妻山を仰ぐ広々とした果樹園には、苗木を含め100本を超すサクランボ、300本のモモ、40本のリンゴの木が植えられている。6月初旬にはサクランボの収穫が始まる。

 後を継ぐ長男(28)夫妻は、インターネットで「FUKUSHIMA FRUIT LAND」を海外にもPR。今では韓国や香港などから注文が入る。サクランボやモモ狩りにアジアの近隣国から訪れる観光客も。しかし、最近は原発の「FUKUSHIMA」に関する報道のために、そのことを憂慮するメールが届いているのが実情である。

 「仮に放射能汚染レベルが無視できるほど低くて果物を市場に出荷することができても、風評被害は免れない」と忍さんは言う。

 果物、米、野菜、牛乳、花…。風評被害を含めれば、福島県下の農家で影響を受けないところはないだろう。漁業、観光、さらには輸出品を製造する企業の撤退と、その影響は広がるばかりだ。

 放射線による健康被害も見逃せない。福島県飯舘(いいたて)村では10日、放射線の影響について東京電力が招いた大学教授による説明会が開かれた。当の教授は「家の窓を開けても大丈夫。放射線レベルは下がっていますから」と住民を安心させるように話した。ところが、翌日、飯舘村の全域が政府の「計画的避難区域」に指定された。住民の累積被曝(ひばく)による健康への影響が懸念されるからだ。

 飯舘村は原発から約40キロ離れているが、県内の他地域より高い放射線レベルを記録してきた。このため、事故後1カ月余り放射線を浴び続けてきた住民たちは、将来への生活不安とともに、健康不安をも募らせている。

 むろん、原発事故の最前線で高い線量を浴びながら事故の収束に向けて活動する多くの作業員の健康問題が、最も深刻であることは言を待たない。妊婦や幼児のいる家庭では、避難地域に入っていなくても、自主避難をしている人たちも多い。

 チェルノブイリ原発事故や、米国、旧ソ連の核実験などに伴う放射線被害の実態をリポートしてきた私には、テレビ番組で解説する「専門家」と称する人々のように楽観的にはなれない。原発がいったん暴走すれば、無差別、広範囲にどれほど多くの人々に被害を及ぼすか。その罪深さを思わずにはいられない。

(2011年4月18日朝刊掲載)

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