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社説・コラム

社説 放射能汚染対策 生活支援に万全尽くせ

 福島第1原発で事故が起きて40日余り。放射能に汚染された地域から住民を避難させる政府の対策がようやく出そろった。

 原発から半径20キロは立ち入り禁止の警戒区域に。さらにきのう、その外側に「計画的避難区域」と「緊急時避難準備区域」を設けた。3区域とも被曝(ひばく)放射線量が年間の上限値20ミリシーベルトを超す恐れがあるという。

 「計画的避難区域」の住民については今後1カ月のうちに避難先を決めてもらう方針だ。全村が指定区域となった飯舘村には、乳幼児の親子や妊婦を除く約5千人が今も残る。

 いつ戻れるか見通しも立たないまま、住みなれた家や古里を離れなければならない。安全を最優先した措置とはいえ、住民の胸中は察するに余りある。

 村は放射線量の低い地区の指定解除や役場機能の移転などを求めている。政府が村内に置く予定の現地対策室をしっかり機能させ、きめ細かな避難者支援に当たってもらいたい。

 東京電力が示した工程表では、福島第1原発を安定した状態に持っていくまでに、うまくいっても6~9カ月かかる。少なくとも半年以上は放射能による汚染が続くことになる。

 三つの区域では土壌汚染も懸念されている。このためコメの作付け制限が発動された。それ以外の作物はどうするのか。牛など家畜の移動先を確保できるのか…。

 区域指定と歩調を合わせた措置はやむを得まい。しかし金銭的な補償だけでなく、営農の意欲をそぐことのないよう万全の対策を講じる必要がある。

 将来の環境回復につなげる視点が大切だろう。放射線量の変化を見ながら、田畑の土を入れ替える作業のタイミングも計るべきだ。  原発から60キロ以上離れた福島市内でも、年間にすれば上限値を超す放射線レベルが観測されている小学校がある。指定区域外でも不安は高まる一方だ。

 政府は放射線の監視態勢を強めるという。学校施設を中心にしたモニタリングだけで十分とは言えない。公共施設や耕作用のため池、水路なども測定対象に広げるべきではないか。

 被災者が県外で宿泊を断られるといった事態も後を絶たない。「放射能がうつる」などと心ないいじめを受ける児童もいるという。大人の責任は極めて重大である。

 偏見や差別を断つには一人一人が科学的な根拠に基づき、冷静な言動を取るしかない。モニタリングなどで得た正しい情報を、分かりやすく伝える努力も求められる。政府は放射線量分布マップなどを考えているようだが、ぜひ住民にとって使い勝手のいいものにしてほしい。

 「ひもじい、つらい思いをしていること、本当に分かっていますか」。謝罪に訪れた東京電力の社長に対し、福島県の佐藤雄平知事は声を震わせた。その問い掛けは政府関係者にも向けられていることを忘れてはならない。

(2011年4月23日朝刊掲載)

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