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社説・コラム

『潮流』 被災地の子どもたち

■論説委員 江種則貴 

 自由に絵を描かせると、画用紙全体を真っ黒に塗りつぶす子がいたという。あの日を思い出すのか、急に机に突っ伏す子もいる。

 東日本大震災で被災した子どもたち。学びやに友と語らう声が戻り始めた。だが、その心の内側を伝えるニュースに接するたび、胸がふさがる。

 親が亡くなったか行方不明の孤児は100人を超えた。どう接すればいいのか、教師の苦労は並大抵ではないだろう。

 無事だった親もつらかろう。住み慣れた家も仕事場も津波に流され、いら立つ思い。家族で避難所に身を寄せ、どんな明日を語り合っているだろうか。

 政府は補正予算案に、被災地へのスクールカウンセラー派遣費30億円を盛り込んだ。子どもたち、さらに教師や親とも、じっくり対話を重ねてほしい。

 ふと思った。これから復興を担う子どもたちだ。震災体験や近況を日記や作文に書いてみては―。

 いま思い出すことはつらいかもしれない。だから、ゆっくりでいい。被災地の教室や家で書きためてみよう。そうすれば、一歩ずつ前へ進む自分の足跡を確かめる日々の記録にもなるはずだ。

 被爆地の子どもがそうだった。教育学者だった長田新(おさだあらた)さんが編んだ「原爆の子」。幼くしておびただしい死に直面した1200人近くが、怒りや悲しみを包み隠さず手記につづった。一部を収録して刊行されたのが被爆6年後だ。

 以来60年間、脈々と読み継がれてきた。平和な明日を願う一つ一つの言葉が、共感を呼んだからだ。子どもたちは刊行後、友の会組織をつくり、支え合って戦後を生きた。そんな後日談もある。

 いつの日かきっと、あの真っ黒な絵にも希望の光が差し込む。そう信じずにはいられない。

(2011年4月27日朝刊掲載)

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