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社説・コラム

社説 チェルノブイリ25年 負の遺産が問う原子力

 発生から四半世紀を迎えた旧ソ連(現ウクライナ)のチェルノブイリ原発事故。史上最悪の原子力災害はいまだ終わっていない。

 旧ソ連と違って、日本の原発は設計が行き届いている上に安全管理も徹底している。だからこのような事故は起こるはずがない―。当時、多くの原子力専門家がそう口をそろえた。

 しかし「安全神話」はもろくも崩れ去った。先月発生した福島第1原発事故である。国際評価尺度はチェルノブイリと同じ「レベル7」。25年前の惨事が引き起こしたことをあらためて見つめ、教訓とする必要がある。

 事故が起きたのは1986年4月26日。試験運転中の4号機が暴走し爆発炎上した。大量の放射性物質が10日間にわたって大気中に放出された。

 放射能汚染は欧州ばかりか、日本など世界各地に広がった。放出量はセシウムでみると、広島に投下された原爆800個分に相当するとの推計もある。

 事故はさまざまな負の遺産をもたらした。一つが現在もなお原子炉内に核燃料約200トンが残っていることだ。

 コンクリートの「石棺」で封じ込めているとはいえ、放射性物質が漏れ出す恐れも指摘される。老朽化した石棺に鉄の覆いをかぶせる計画もあるものの、資金難で大幅にずれ込んでいるという。

 ソ連政府は事故後、土壌汚染が続く原発30キロ圏内を立ち入り禁止にし、住民13万5千人を立ち退かせた。今なお居住や経済活動が禁止されているにもかかわらず、高齢者を中心に約2千人が戻ってきたという。住宅不足や避難生活の厳しさも背景にあるのだろう。  最も懸念されるのが放射能汚染による健康への影響である。

 国連科学委員会の報告書によると、運転員や消防士28人が急性放射線障害で死亡。周辺に住む小児6千人が甲状腺がんで手術を受け、15人が亡くなった。それ以外の除染作業員や住民に「健康影響は認められない」としている。

 がんによる死者は旧ソ連と欧州の計40カ国で将来も含め1万6千人に達するとの予測もある。被爆10年後ごろからがんが増え始めた広島、長崎のケースを考えれば、継続的な健康調査が欠かせない。

 それと同時に、事故による精神的影響やストレスも大きな問題になっている。

 一方、福島第1原発事故で放出された放射性物質の量は今のところチェルノブイリの10分の1程度。放射線による死者も出ていない。だが事故収束まで「6~9カ月かかる」とされている点では、むしろ深刻ともいえよう。

 国連の潘基文(バンキムン)事務総長は「原発の安全基準を根本から見直さなければならない」と強調した。二つの事故を踏まえるなら当然だが、それで十分ではあるまい。

 ひとたび事故を起こせば住民被害は広範囲、長期間に及び経済的損失も計り知れない。原発頼みのエネルギー政策を根本から問い直す時期に来ているのではないか。

(2011年4月27日朝刊掲載)

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