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社説・コラム

社説 浜岡原発問題 安全基準見直す契機に

 中部電力はきのう、菅直人首相から要請を受けた浜岡原発(静岡県御前崎市)の一時停止について、最終結論を先送りにした。

 夏場の電力供給、火力発電の燃料調達、収支見通し、従業員の雇用など、多岐にわたる問題を慎重に判断しているようだ。

 しかし浜岡原発は東海地震の想定震源域の中央部に立つ。国内で最も地震・津波の被害が懸念されてきた原発だ。中部電は一刻も早く、一時停止への方向性を示してもらいたい。

 首相は定期検査中の3号機に加え、稼働中の4、5号機を含めたすべての原子炉のいったん休止を求めた。1、2号機は既に運転を終えているため、浜岡原発が丸ごと止まることになる。

 首相が理由に挙げたのが、地震・津波対策の不十分さだ。文部科学省の想定によると、30年以内にマグニチュード8.0程度の東海地震が起きる可能性は87%と極めて高いという。

 さらに東南海、南海地震と連動すれば、東日本大震災に匹敵する規模の揺れとなる恐れを指摘する専門家も少なくない。

 「国民の安全と安心を考えた」として、防潮堤の設置など中長期の対策が整うまでの休止を求めた首相の判断は、妥当で理にかなっていると言えよう。

 震災後の中部電の対応には首をかしげざるを得ない点もあった。

 高さ12メートル以上の防潮堤を築くなど約300億円をかける緊急対策を自主的にまとめてはいた。

 一方、定期検査などで停止中の原子炉の運転再開に多くの電力会社が慎重な構えを取る中、中部電は先月末、3号機の運転を7月に再開したい意欲も示した。

 これに対し静岡県知事が「津波対策が不十分」と反発したのも、危険と隣り合わせで暮らす住民の思いの反映であろう。

 首相の要請には法的拘束力もないが、こうした地元の不安が背景にある。中部電は重く受け止めるべきである。

 しかも国内の電力会社の中では原発への依存度は低い。関西電力からの送電なども前提にすれば、夏場のピーク時を乗り切る対策は比較的容易と思われる。

 もっとも、これまで各地の原発の安全性に「お墨付き」を与えてきたのは国である。原発をめぐる基本政策について首相や閣僚の発言が場当たり的だとの批判があるのも事実だ。

 浜岡原発だけ止めることで、一気に原発全体の信頼回復を図ろうとする思惑が国にあるとすれば、言語道断と言わざるを得まい。

 国は今回の要請を機に、前例や常識を排して原発の安全性や審査の在り方を見直すべきだ。首相も原子力やエネルギー政策の将来をどう考えるのか、具体的に国民に語りかけてもらいたい。

 もちろん電力各社も地元住民や自治体の不安を取り除く努力を尽くさねばなるまい。原発の10キロ圏内に県庁所在地を抱え、瀬戸内海に新設計画もある中国電力も例外ではありえない。

(2011年5月8日朝刊掲載)

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