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社説・コラム

社説 浜岡原発停止 全国的な再点検を急げ

 中部電力はきのう、静岡県御前崎市にある浜岡原発の一時全面停止を決めた。結局、菅直人首相の要請を受け入れた格好だ。

 5基ある原子炉のうち廃炉が決まっている2基は既に停止。運転中の2基については数日内に停止させ、定期検査中の1基も当面再稼働しない方針という。

 地震や津波などに見舞われ、放射性物質が放出される事態になれば取り返しがつかない。東日本大震災に伴う東京電力福島第1原発の事故が物語っている。停止の判断はやむを得まい。

 政府が浜岡原発の一時停止を求める根拠としたのは国の地震調査委員会が作成した「全国地震動予測地図」である。浜岡原発の場合、30年以内に震度6強以上の揺れに襲われる確率は83.6~84.0%とされた。

 大震災を受け中部電は高さ12メートル以上の防潮堤を造ると決めたが、完成まで約2年かかるという。その間に東海地震が起きる可能性もある。少なくとも対策が完了するまでは運転すべきでないとの主張に多くの国民は納得しよう。

 一方、国内には50基余りの原発がある。政府は浜岡以外の原発については運転継続や再開は支障がないと発表した。

 予測地図によると、浜岡を除けば震度6以上の地震が発生する確率はほとんどが10%以下。「日本海側、瀬戸内の原発はまず心配ない」とした仙谷由人官房副長官の発言もこの数字を念頭に置いているのは間違いない。

 しかし作成に当たった専門家さえ「予測は一般防災用で確率にあまり意味はない」と強調している。活断層や津波の危険性が指摘される原発はほかにもある。浜岡ばかりを特別視することに違和感も覚える。

 福島第1原発事故を契機に、政府の指示で各電力会社が行った緊急安全対策はほぼ整ったとされる。全原発への電源車配備や建屋の浸水対策が中身だ。

 さらに防潮堤築造など中長期対策も始まっているとして、海江田万里経済産業相は運転継続を認める方針を明らかにした。「国が安全性に責任を持つ」と述べたものの、うのみにはできまい。

 こうした対策には年単位の時間と巨費を要する。今の時点で運転継続を口にすることよりも、各原発の安全性をできる限り早急に調査して、問題点と対策をきちんと公表すべきだろう。

 併せて国の安全審査の基準も根本的に見直す必要がある。

 中国地方にも松江市に中国電力島根原発がある。中長期対策として2年かけ、沿岸部1.6キロにわたる防波堤(高さ0.9メートル)にコンクリート製の防波壁をかさ上げするという。点検不備問題から停止したままの1号機や建設中の3号機への対応がこれから問われることになる。

 原発は国内の電力エネルギーの3割を賄ってきた。それを維持していくのか、あるいは縮小や廃止に向かうのか。国民的に議論しなければならぬ時機が来ている。

(2011年5月10日朝刊掲載)

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