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社説・コラム

社説 原発工程表見直し 後手の対応から脱却を

 福島第1原発事故の収束に向け、東京電力がきのう2度目の工程表を発表した。

 1号機のメルトダウン(全炉心溶融)だけでなく、2、3号機も炉心溶融の可能性が高まるなど、事故の重大さがあらわになる中での見直しである。

 東電は収束の作業内容を大幅に変更することを明らかにした。にもかかわらず10月から来年1月までに原子炉を冷温状態にするという目標時期は変えていない。

 避難住民らを安心させるためかもしれない。楽観的すぎるとの見方もあるようだ。

 1号機について、燃料棒の上まで水を注ぐ冠水で対応できるというこれまでの見通しは甘かったといえる。東日本大震災の発生直後から懸念されていたメルトダウンにより、圧力容器や格納容器から水が漏れていたからだ。

 見直しでは冠水に先立って、汚染水を浄化しながら循環させて冷やすシステムを導入するという。現実的な判断だろうが、後手に回った感は否めない。

 格納容器の損傷次第では、循環システムがうまく作動するかどうか未知数だ。まして高濃度の放射能汚染など厳しい作業環境下で計画通りに進められるだろうか。

 工程表の大幅な見直しは相次ぐトラブルも一因になっている。この間、3号機の取水口近くから汚染水が新たに海に流出していたことが分かった。こうした事態に東電は、2号機に加えて3号機の汚染水を集中廃棄物処理施設に移す作業を始めた。

 敷地内の汚染水は、原子炉の冠水を止めればある程度抑えることができる。しかし土壌への浸透などを食い止める根本的な手段がない限り、放射性物質の流出は依然として続くことになる。

 おととい夜に公表された1号機の緊急停止直後の状況によると、炉心を冷やす非常用復水器はいったん作動していた。運転員が手動で止めたともみられている。

 東電も「非常用復水器が作動していれば時間を稼ぐ余裕ができ、電源復旧や炉心への注水ができた可能性はある」と認める。収束作業の中でも事故原因の究明につながる調査は欠かせないはずだ。

 東電側は想定を超えた津波により非常用電源が喪失したことを最大の要因としてきた。本当にそれだけなのか疑問を抱く国民も少なくなかろう。

 これまで東電の情報公開はあまりに不十分だったといわざるを得ない。新しい工程表を信頼の置けるものにするためにも、姿勢を改める必要がある。

 今回は政府も歩調をそろえる形で、警戒区域や計画的避難区域の被災住民救済、賠償、土壌汚染対策などの工程表を示した。遅きに失した面もあるが評価できる。

 国際原子力機関(IAEA)から調査団を受け入れる。内外の専門家の英知を集めたい。

 事故現場では作業員らが危険を顧みず、収束に向け全力で奮闘している。物心両面で支えることも忘れてはなるまい。

(2011年5圧18日朝刊掲載)

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