×

社説・コラム

社説 上関原発埋め立て 立ち止まって考えよう

 福島第1原発事故はいまだに予断を許さない状態が続く。原発自体の安全性が揺らいでいる以上、新たな立地を考え直すのは当然といえるだろう。

 中国電力が山口県上関町に計画している上関原発。二井関成知事はきのう、予定地の公有水面埋め立てに必要な免許について、失効させることも視野に検討していることを明らかにした。

 県が免許を中電に交付したのは2008年10月だ。選挙などを通じ地元合意を得た形で09年10月に海面埋め立て工事が始まった。

 だが反対住民らの抗議活動でほとんど進んでいない。今年2月に再開されたものの、福島の事故を受けて再び止まったままだ。

 完工期限(3年以内)の12年10月までの埋め立て完了は事実上、不可能に近い。延長の申請をしなければ免許は失効となる。

 一方で中電が09年12月、国に申請した原子炉設置許可は現在も安全審査が続いている。

 原子炉設置の許可が出ていないのに、埋め立て免許だけが先行している現行制度のあり方はおかしいのではないか―。福島での事故後、疑問を呈した知事と同じ思いを抱く県民も多いはずだ。

 「免許を失効するか延長するか選択肢は二つだが、まだ白紙の状態」。今回の知事発言はさらに踏み込んだものといえる。慎重な言い回しながら、10年前に原発建設計画に同意した県の姿勢の見直しを示唆したとも受け取れる。

 その背景には、事故を受けて菅直人首相がエネルギー政策の転換方針を表明したことがある。

 首相は原発の一層の安全性を確保するとした上で「太陽光や風力など再生可能エネルギーを推進し、省エネ社会をつくることに力を注ぐ」と強調。30年までに総電力に占める原発の割合を50%以上にすることなどを盛り込んだエネルギー基本計画も、白紙に戻して議論するとしている。

 国の政策見直しを踏まえ、来月の県議会定例会で知事自ら県の対応を表明する考えのようだ。

 あらためて国民共有の貴重な財産である公有水面の埋め立て免許の重みを考えたい。国土利用上、適正で合理的なものか。環境保全や災害防止に十分配慮されているか…。さまざまな要件が課されているのも、そのためだろう。

 上関原発は造成面積全体の40%を超える約14万平方メートルが海面の埋め立てになる。希少生物への影響も指摘されている。瀬戸内海全体の海水が外洋水と入れ替わるのに約1年半かかる。ひとたび汚染されれば、海への影響は福島以上に深刻になる可能性も大きい。

 東海地震の想定震源域に立地し地震・津波の被害が懸念されてきた静岡県の浜岡原発は、首相の要請で全面停止された。さらに国の安全審査の基準についても一から見直す必要がある。

 原発の安全神話は崩れ去った。安全確保の検証なしに埋め立て工事の再開はあり得まい。立ち止まって白紙の立場から考えてみる機会ではないか。

(2011年5月20日朝刊掲載)

年別アーカイブ