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社説・コラム

社説 原発事故調査 洗いざらい事実を表に

 東京電力の福島第1原発事故から2カ月半。来日中の国際原子力機関(IAEA)の調査団が活動を本格化させた。事故原因の解明などが目的である。

 政府の第三者機関「事故調査・検証委員会」も設置が決まった。遅きに失した感もあるが、背景や企業風土まで徹底的に掘り下げてもらいたい。

 福島第1原発には原子炉が6基ある。核燃料がメルトダウン(炉心溶融)を起こしたとみられる1~3号機。水素爆発が起きて圧力容器、格納容器ともに破損している可能性が高い。定期点検中だった4号機でも火災が相次ぎ、原子炉建屋が損壊した状態だ。

 原発からは放射性物質の飛散が続いているとみられる。高濃度の放射性物質で汚染された水も大量に建屋内などにたまり、一部は海に流れ出た。

 重大なトラブルが同時進行し、いまもって収束が見通せない事態が続く。その点では放射性物質の放出が10日間で止まった1986年の旧ソ連チェルノブイリ原発事故をしのぐといえる。

 IAEAの調査団は米国、英国、フランスなど12カ国の18人。原発の耐震対策や使用済み核燃料の管理などの専門家だ。事故状況、運営管理、事故対応の三つの観点から現地調査や聞き取りを進め、6月1日までに報告書の素案をまとめるという。

 一方、委員長に「失敗学」の第一人者、畑村洋太郎東大名誉教授を起用する政府の事故調査・検証委員会。メンバーから原子力産業と利害のある関係者を除くのはもちろんだ。原発に批判的とされる学者を含め、各界から広く人選してはどうか。

 菅直人首相が強調するように「独立性」「公開性」「包括性」が求められることは言うまでもない。ただ事務局は内閣官房に置かれるという。果たして官邸の対応にも切り込めるのだろうか。調査委を国会に設置し、資料提出の義務や罰則を伴う証人喚問を含めた強い調査権を持たせる―とする自民党案は検討に値する。

 まずは東電の対応をしっかり検証すべきだ。例えばメルトダウンの事態を把握しながら、過小評価する発表をしていたのでは、との疑念を拭えない国民も多かろう。

 その矢先、信じがたい事実がまた明らかになった。

 震災翌日に1号機を冷やす海水注入が中断したとされる問題で、実際には発電所長の判断で注入を続けていたと東電が訂正した。「IAEAの調査があるので事実を報告する気になった」と所長は話しているという。

 注水を継続したのは現場の英断ともいえるが、事故対応の要となる重大な事実が、なぜ今まで本店や保安院にも伏せられていたのか。隠蔽(いんぺい)体質というほかない。

 官邸や原子力安全委員会、保安院のちぐはぐな対応も次々に浮き彫りになっている。事実の正確な把握を抜きにしては調査もあったものではない。洗いざらい公表することこそ、イロハのイだ。

(2011年5月27日朝刊掲載)

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