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社説・コラム

社説 原発事故調査 全ての問題に大なたを

 「原子力安全対策の根本的な見直しが不可避」。そう結論付ける報告書を政府がまとめ、国際原子力機関(IAEA)に提出した。

 東京電力福島第1原発事故について、28項目にわたって「教訓」を列挙している。

 この間、津波や過酷事故への対応の不備が問われてきた。それをほぼ全面的に認めた内容といえる。その上で非常時の電源の確保、事故時の放射線被曝(ひばく)の管理体制の強化など、多岐にわたる問題点と対策に触れている。

 核燃料が原子炉圧力容器の底に溶け落ち、一部は容器に開いた穴から外側の格納容器に落下して堆積するメルトスルー(溶融貫通)。最悪の事態が1~3号機で起きた可能性についても初めて公式に認めた。

 専門家の間では早くから指摘されていたようだ。3カ月近くたってからの公表である。釈然としない思いを持つ人もいよう。

 経済産業省の下にある原子力安全・保安院については、独立を明記している。IAEAの調査でもかねて言及されていた。安全管理の厳正化を図るためにも当然である。

 さらに電源や排水路など原発内にある設備の配置見直しにも踏み込んでいる点も目を引く。

 とりわけ問題視したのが福島第1原発では隣接する原子炉の設備が共用だったことだ。「事故時の操作が独立して行えるようにして、事故の影響が隣接炉に及ばないようにする」としている。

 集中立地している国内の原発に共通する根本的な問題といえるだろう。運転中や停止中を問わず、既存原発全体の運転にも影響する可能性があるだけに、早急な対応が求められる。

 事故当時の情報提供もリスクの評価が不適切で不安を与えたと認めた。緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム(SPEEDI)のデータ公開の遅れについても謝罪している。

 今後は事故の状況や対応、放射線の影響を周辺住民に手厚く説明するという。言葉だけに終わらせてはなるまい。

 原発事故の原因解明と再発防止で、重要な役割を担うのが政府の第三者機関「事故調査・検証委員会」である。

 委員長には「失敗学」で知られる畑村洋太郎東大名誉教授が就任した。地震学や放射線被曝などの研究者、法曹関係者、被災地の町長ら10人で構成される。「原子力村」と呼ばれる原子力産業や大学の関係者は除かれた。

 「世界の注目に応える報告をお願いしたい」と期待感を表明した菅直人首相に対し、畑村委員長は「100年後の評価に堪える結果を目指す」と応じたという。

 それには、全てをまな板に載せて洗いざらい検証を進める態勢や権限が欠かせまい。

 調査・検討委は必要に応じて首相や閣僚、官僚からも経緯を聴くようだ。行政や法規制の在り方、この国の安全文化にまで大なたを振るってもらいたい。

(2011年6月9日朝刊掲載)

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