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社説・コラム

日本被団協・田中事務局長に聞く 国は被曝住民の把握を

■記者 岡田浩平

 爆風と熱線、そして放射線という壮絶な原爆被害に遭った広島、長崎の被爆者たちは、福島第1原発事故をどう受け止めているのか。自分たちの経験を今回、どのように生かそうと考えているのか。日本被団協の田中熙巳(てるみ)事務局長(79)に聞いた。

 ―原発近くの住民に事故後の行動を記録するよう求めています。その意図は。
 事故発生や爆発の時にどこにいて、どう避難したのかを克明に記録しておけば、日時、場所ごとの放射線量と合わせ、自分の被曝(ひばく)状況がある程度分かる。住民の健康影響で心配なのは内部被曝による数年、数十年後の病気の発症だ。万が一に備え、被曝との関係を証明するのに欠かせないと考えている。

 私も原爆が落とされた時、放射線の人体への影響を知らなかった。家族や友人を捜しに被爆地を歩き回った人も多い。何年かたって被爆者が病気で亡くなっていき、自分は大丈夫かと不安になった。個別の被曝状況を把握するのは安心材料にもなる。

 ―国の責任で健康管理も求めています。その理由は。
 被爆者は1957年に被爆者健康手帳が交付され、健康診断が始まるまで救済されなかった。今の援護策は運動の成果だ。国は一貫して原爆被害を放射線の健康影響に限定し、それさえも過小評価してきた。原爆症認定の審査結果をみても、残留放射線や内部被曝の影響を過小評価する姿勢は変わっていない。

 福島について国が「ただちに健康に影響はない」と言うだけではだれも信じない。年1回以上、無料で健康診断し、病気になれば治療すると、国に言わせなければならない。

 ―福島の被災者のため被爆者はさらに何ができますか。
 私たち被爆者と同じ苦しみを味わってほしくない。国や科学者の言うことだけでは被曝の実態は分からない。被爆者が何に今も苦しんでいるのかを学び取ってほしい。私たちは体験を語り、国に被爆の実態に向き合うよう訴え続ける。

(2011年6月11日朝刊掲載)

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