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社説・コラム

社説 伊の国民投票 脱原発 大きなうねりに

 原発再開の是非を問うイタリアの国民投票で、民意は「反対」を突き付けた。関心が低く不成立との前評判もあったが、ふたを開けてみれば投票率は5割を超えた。反対票は9割台にも上った。

 日本で起きた福島第1原発事故の教訓が、圧倒的な数字となって表れたといえよう。同じ地震国だけに国民に与えた衝撃の大きさも如実に物語る。

 福島の事故以降、先陣を切って脱原発を決めたのはドイツとスイスだ。両国とも期限を切って原子炉全てを停止させるという。原発大国フランスでも現状批判が勢いを増しているようだ。欧州では確実に潮目が変わりつつある。

 イタリアでは1986年のチェルノブイリ原発事故を受けて翌年から順次、国内4カ所の原発が廃止された。

 火力発電が肩代わりしたものの、電力不足が慢性化。コストもかさんで電気料金は欧州連合(EU)の平均を上回る。エネルギー需要の8割以上が輸入頼みで政府の財政も苦しい。打開策として政府が問うたのが原発再開だった。

 ところが福島の事故を機に風向きは一変。ベルルスコーニ首相自ら棄権を公言し沈静化を図ったにもかかわらず、「反原発」のうねりに抗しきれなかったといえる。開票結果が出る前に早々と敗北宣言をした。

 もちろん脱原発に対する懸念の声もある。経済や国民生活に及ぼす影響は小さくあるまい。

 ただエネルギー政策を根本から見直す議論が深まったわけではなさそうだ。足りなければ近隣から融通が利く欧州だからこその選択だったと見る向きもある。

 そうした事情があったにせよ、主要国(G8)の一翼を担うドイツに続くイタリアの「脱原発」の意思表示は重い。

 もともと両国はチェルノブイリ以来、原発に対する警戒感は強かったといえる。反原発を唱える「緑の党」が一定の支持を集めてきたことからもうかがえよう。

 2022年までに国内の原発17基を全廃する―。ドイツのメルケル首相が下した決断にしても、前政権の既定路線だった。

 原発推進にかじを切ろうとした政権に福島の事故が冷水を浴びせた形になったのは、まさに両国とも同じだ。

 当事国の日本はどうだろうか。

 菅直人首相の要請で静岡県の浜岡原発は「危険性が高い」として停止された。首相はG8首脳会議で「自然エネルギーの割合を20年代の早い時期に20%にする」と公約する一方、原発を温存するスタンスは変えていないようだ。ちぐはぐな印象は拭えない。

 被災地など国内各地からは新規原発の凍結はむろん、縮小や廃止を望む声が聞こえてくる。政府の真意がどこにあるのか測りかねている国民も多いのではないか。

 「自主」「民主」「公開」の三つを原則にしてきた原子力行政。今こそ幅広い国民の意見を吸い上げ、これから進むべき道を選択していく時である。

(2011年6月15日朝刊掲載)

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