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社説・コラム

社説 原発の再稼働要請 拭えぬ「安全」への懸念

 本当にこれで安全対策は十分といえるのだろうか。

 停止している全国の原発を再稼働するかどうかをめぐる海江田万里経済産業相の発表である。「運転の継続、再稼働は安全上支障ない」と述べ、立地自治体を訪れて協力を要請する方針を示した。

 全国の商業用原発54基のうち定期検査などで現在35基が停止中。さらに5基が8月末までに定検で停止する見通しだ。

 再稼働されない場合、この夏に全国で見込まれる電力の最大需要に対し、余力は6.2%にとどまるとされている。安定供給に必要な目安とされる8%を割り込む可能性がある。

 経産相の発言には、原発の再稼働によって、何とか夏場の電力需給を安定させたいという思惑が透けて見える。

 しかし東京電力福島第1原発は事故から100日を経ても収束が見通せず、本格的な検証作業もこれからになる。全国の原発では防波堤建設など中長期の地震・津波対策が緒に就いたばかりだ。

 立地する県など自治体側が同意するためには、経産省が「安全」とした根拠がはっきり示されていることが前提になる。

 原子力安全・保安院によると、3月末に求めた地震・津波対策の強化に加え、電源喪失や水素爆発の危険を想定した「過酷事故」への対策を各社に追加指示。立ち入り検査の結果、適切であることを確認したという。

 全電源喪失など従来は想定していなかった事態に対し、当面の対策が講じられたとはいえる。

 とはいえ中長期の対策はこれからだ。政府が見直すとしていた原発の安全指針に至っては、今もって国民に示されていない。

 原発が立地する自治体や住民が政府に不信感を募らせるのも当然といえる。13基が立地する福井県は「安全の確証が得られない限り、再稼働は認めない」と従来の立場を変えていない。

 各原発で立地条件や稼働年数が異なっているのに、一律の安全対策で十分とした点は見逃せまい。中部電力浜岡原発だけに停止を求めた国の対応についても必ずしも理解が得られていないようだ。

 中国地方でも松江市にある島根原発の1号機が定期検査中。2号機だけが稼働している。建設中の3号機への対応もこれから問われることになる。

 日本世論調査会の全国調査では原発の「廃炉推進」が82%に上り、「現状維持」は14%にとどまった。原発政策に対する国民の不信感の強さを浮き彫りにした。

 再稼働をうんぬんする以前に、 国際原子力機関(IAEA)の調査団が指摘した規制当局である保安院の独立性を早急に確保すべきではないのか。原子力安全委員会にもメスを入れる必要がある。  原発推進の旗振りをしてきた経産省が「お墨付き」を出すのは不可解だ。安全性への懸念が残ったままの現状を考えれば、運転を再開する判断は時期尚早といわざるを得ない。

(2011年6月19日朝刊掲載)

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