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社説・コラム

社説 IAEA閣僚級会合 利害超えて教訓生かせ

 フクシマを繰り返さないための出発点になるだろうか。ウィーンで開かれている国際原子力機関(IAEA)閣僚級会合である。

 福島第1原発の事故を受けて各国代表が対策を議論する場だ。初日に採択した声明では、原発の安全基準の強化などを盛り込んだ。

 原発の構造や設備については設計段階からIAEAが一定の基準を設けている。しかし安全の確保は各国任せになっているのが実態だ。今回の事故に、国際社会が深刻な危機感を抱いたことは間違いあるまい。

 声明が国際連携によって原発の安全に取り組む姿勢を明確にしたのは当然だろう。

 IAEAが中心的な役割を果たし、各国の原発の安全性を共通の基準に従って定期評価する仕組みを提言している。

 抽象的な表現になっている声明を肉付けしたのが天野之弥事務局長が明らかにした構想である。

 早ければ来年にも専門家チームを各国に派遣するという。原発の「抜き打ち調査」を打ち出したことは注目に値する。リスクを抱えている原発の実情をガラス張りにできるなら意味は大きい。

 日本や欧米諸国は既に同意したが、国際社会が足並みをそろえるのは容易ではなかろう。

 先進国は高度な原発技術を持ち、情報公開の実績もある。IAEAの規制が強化されたとしても影響は小さいといえる。原発輸出国のフランスやロシアは、むしろ国際競争力が高まるとして「最高水準の安全対策を義務付けよ」と主張しているほどだ。

 一方、新興国にすれば、安全基準の強化は建設コストの増大につながりかねない。とりわけインドや中国は核兵器開発と絡むだけに、立ち入り調査などに難色を示すとみられている。

 そもそもIAEAは1957年に米国の主導で設立された。原子力の軍事利用に歯止めをかけるのが主な目的である。現在、150カ国余りが加盟し、新たな核兵器の開発疑惑に対しては査察など強制力のある手段も持っている。

 それに比べれば平和利用に対する権限は小さく、「助言」しかできない。安全対策の実効性を高めるために権限強化を求める声も出てきそうだ。

 声明では「原子力規制当局の独立性の確保」も掲げた。原子力安全・保安院が経済産業省に属している日本に向けられていることは明らかだろう。

 海外から「情報開示に後ろ向き」と見られてきた点も忘れてはなるまい。状況を正確かつ迅速に伝える姿勢が不可欠だ。

 IAEAは来年、日本で開く国際会議までに原発の安全に関する「処方箋」をまとめるという。

 原子力の平和利用を名目に、核兵器開発を続けている国に目を光らせつつ、一方で原発を推進する。そんなジレンマも浮き彫りになっている。

 脱原発の動きも広がる中で「核の番人」と呼ばれてきたIAEAの真価が問われよう。

(2011年6月22日朝刊掲載)

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