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社説・コラム

『論』 福島県の健康調査

■論説副主幹 山内雅弥

第三者機関が望ましい

 発生から3カ月以上たっても収束が見通せない福島第1原発事故。福島県民200万人余りを対象にした県の健康調査がスタートした。

 放射線がもたらす、がんなどの長期的な健康影響を突き止めるには数十年間に及ぶ調査が必要だ。

 広島、長崎には原爆被爆者の協力で半世紀以上にわたり培ってきた科学的な追跡調査の蓄積がある。これから原発事故の健康調査を進めていく上でのヒントを与えてくれる。

 福島県の調査は3月11日時点で県内に居住していた全員を対象にした基本調査と、人数を絞り込んだ詳細調査の2通りを実施する。

広島・長崎がモデル

 基本調査は質問票に自ら書く方式。事故当日以降、どこにどれくらい滞在したか、何を食べたかを記入して、体内外で被曝(ひばく)した個人線量を推計する。ただ3カ月以上前の行動や食事内容を正確に思い出すのは、たやすいことではあるまい。

 避難区域の住民や基本調査で必要と認められた人(約20万人と想定)については詳細調査を実施。健康診断を受けてもらって身体計測や血液、尿検査のほか、子どもには甲状腺検査もする。

 原爆被爆者の追跡調査の手法がモデルになっていることは間違いなかろう。日米両政府の共同出資で設立された放射線影響研究所が、広島と長崎で取り組んできた。

 1947年に発足した前身の原爆傷害調査委員会(ABCC)時代から続けている大規模な被爆者調査。12万人の死因やがんの発生率を調べる「寿命調査」、さらに2万3千人を対象にした健康診断で病気の発症と被曝線量の関係を調べる「成人健康調査」である。

 得られたデータは国際的な信頼性も高い。「分母」となる集団が明確に設定され、個人の線量推定が詳細で、健康や死因に関する個人情報の入手が厚生労働、法務両省により許可されている―。こうした3条件がそろっていたことが背景にあったといえるだろう。

県レベルでは限界

 一方、県が実施主体になって始まった福島の健康調査。県外に避難している住民だけでなく、長い年月の間には対象者が全国各地に散らばる可能性も少なくない。

 そもそも大規模調査を県レベルで担うことには限界がある。政府は今後30年間程度、継続的に実施するため1千億円規模の基金を設立する方針という。

 政府が資金を出すのは当然だが、調査に余計な口を挟むようでは困る。専門家からなる第三者機関を設置してはどうか。もちろん厳重な情報管理は前提だが、必要な個人データへのアクセスも認めるべきだ。

 住民の立場からは、被爆者と同じように全国どこにいても健診を受けられる「健康管理手帳」の発行を望む声が出るのもうなずける。  かつてABCCは「被爆者をモルモット扱いしている」と批判された。あくまで調査の目的は住民の健康管理である。一方的な「データ集め」の調査であってはならない。

 そのためにも健康情報を分かりやすく個人に還元すると共に、調査計画に住民自身が参加できる仕組みも整える必要があるのではないか。

(2011年7月3日朝刊掲載)

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