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社説・コラム

社説 原爆症判決 認定制度の見直し急げ

 国の原爆症認定の在り方に、あらためて司法の側から疑問が投げ掛けられたといえるだろう。

 心筋梗塞や脳梗塞などを患う東京都内の被爆者が、認定申請を却下した処分の取り消しを求めた訴訟の第3陣の判決である。

 東京地裁は2008年に国が要件を緩和した新基準でも認定しなかった16人のうち、73~88歳の12人を原爆症とした。爆心から3.5キロ以内という積極的認定範囲の外側の4キロで被爆し甲状腺機能高進症を認められたケースのほか、これまで原爆症と認定されなかった胸部大動脈瘤(りゅう)の人も含まれる。

 認定されると月額13万6890円の医療特別手当が支給される。

 03年から全国の17地裁に300人余りが提訴した集団訴訟。国側の敗訴が続いたことから2009年、日本被団協と国が全面解決に向けた確認書を交わした。

 これに基づき2010年に敗訴原告救済のための基金創設法が施行された。原告が敗訴した場合も、国が拠出した基金から解決金を受け取れる仕組みになっている。

 今回の訴訟自体は新しい基準以前の2007年に提訴されたものだ。しかし全面解決で合意した後も、広島や大阪、熊本で被爆者の一斉提訴が相次ぐ。

 その背景には認定基準が緩められた後も「門前払い」されるケースが後を絶たない現状がある。

 厚生労働省によると今年1~3月に912件を審査。3分の2に当たる610件が却下された。

 「原爆放射線に起因する疾患を発症するほどの放射線被(ひ)曝(ばく)はなかった」「疾患と放射線の因果関係が証明されていない」などが理由とされている。

 加えて東京で行われている審査自体の遅れも見逃せない。4月末の時点で審査を待っている被爆者は2700人に上る。  8千人を超えていた2年前に比べれば改善しているとはいえ、積み残しの解消には半年以上かかりそうだ。迅速な審査とともに却下の場合は理由の詳細な開示が求められよう。

 厚労省は昨年12月、有識者や被爆者をメンバーとする「原爆症認定制度の在り方に関する検討会」を立ち上げた。司法の厳しい指摘を受けて、ようやく重い腰を上げた格好である。

 検討会は早ければ年内にも新たな認定の仕組みをまとめる方針という。高齢化が進む被爆者の現状を考えれば、もっとスピード感をもって議論してもらいたい。

 福島第1原発事故でも注目されている低線量の被曝。原爆放射線の長期的な影響として、がんのほか白内障や甲状腺疾患、心血管疾患との関連が示されている。

 ただ、これらの疾患は生活習慣や加齢によって発症するケースも多く、なかなか線引きは難しい。「残留放射線の作用や内部被曝を過小評価している」と指摘する専門家もいる。

 それだけに国家補償的な見地に立って、被爆状況を総合的に判断すべきだ。小手先でない抜本的な制度見直しが急がれる。

(2011年7月7日朝刊掲載)

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