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社説・コラム

社説 ジブチに自衛隊拠点 国民的な議論要るのに

 アフリカ東部のジブチに自衛隊の本格的な活動拠点が開設された。

 司令部庁舎や宿舎、上空から海の警戒監視に当たる哨戒機の格納庫などを備える。隣国ソマリア沖・アデン湾での海賊対処活動の長期化に備えるためという。

 国外に常設的な拠点を設けたのは、半世紀余りの自衛隊の歴史上初めてである。

 国民的な議論が乏しいまま、実質的な海外基地が誕生したといえよう。懸念を抱かざるを得ない。

 開設にかけた費用は約47億円。カンボジアやイラクでの仮の施設とは違い、10年以上の使用を想定している。これまで間借りしていた米軍からは自前の拠点づくりを求められていたという。

 国際社会からは、地理的に近いスーダンでの国連平和維持活動(PKO)などへの利用も見据えた動きと受け止められ、歓迎する声もある。

 とはいえ、開設の経緯がなし崩し的なだけでなく、期限や撤収の見通しもはっきりしない。海外派遣がずるずると延びる可能性をはらんでいる。

 ソマリア沖への自衛隊派遣は、原油などの輸送ルートの安全確保が目的。国連の海賊制圧決議に基づいた行動だ。先行して軍艦を派遣していた米欧の求めに応じ、2009年3月から始めた。

 当時の自公政権は、まず自衛隊法に基づく海上警備行動として護衛艦2隻と哨戒機2機を派遣した。同6月の海賊対処法成立で、日本艦船以外の警護にも法的なお墨付きを与えた。

 その際、野党の民主党は文民統制(シビリアンコントロール)強化の観点から国会の事前承認を主張。対処法の採決で反対した。

 しかし政権交代後、政策転換したようだ。いまだに同法の改正は行われていない。

 菅直人首相になってから、海賊対策に当たる各国艦船への給油活動も検討した。米欧追従の傾向はさらに強まっているように映る。

 イラク戦争当時の7年前、民主党は派遣された自衛隊の撤退を要求。追いつめられた当時の小泉純一郎首相が「自衛隊が活動しているところが非戦闘地域」と強弁するなど国会にも緊張感があった。

 それが今や民主、自民の二大政党が派遣継続で一致する。国会の論議は低調で、チェック機能が弱まっているとの印象は否めない。

 政府はきのう、23日に期限を迎える海賊対処活動での自衛隊派遣の1年間延長を閣議決定した。

 海賊の発生は高止まり状態にあり、いたちごっこが続いているのではないか。無政府状態のソマリアなど沿岸国の社会・経済の立て直しが不可欠だろう。

 今年は自衛隊の海外派遣が始まって20年になる。機雷除去のためペルシャ湾に掃海艇を出すことに対し、当時は激論があった。それに比べて落差が目立つ。

 今の自衛隊が担う「国際貢献」の行方が、日本外交の掲げる平和主義を変質させはしないのか。原点を踏まえた議論が要る。

(2011年7月9日朝刊掲載)

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