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社説・コラム

社説 原発再稼働の統一見解 安全性確保を最優先に

 「安全宣言」を出した原発にストレステスト(耐性評価)を追加する突然の方針転換を打ち出した政府が、遅まきながら原発再稼働の統一見解を示した。

 停止中か稼働中かを問わず国内全ての原発に対し、新たなルールで安全度を調べる。福島第1原発事故を受け、欧州連合(EU)が実施しているストレステストを参考にするという。

 国際原子力機関(IAEA)も提唱する手法に照らし、原発の安全度を測ることは評価できよう。ごたついたテスト導入のいきさつはともかく、やる以上は徹底してやってもらいたい。

 というのも政府の姿勢には自然エネルギーの比重を高めるとしながら、原発推進の方針にも変わりはないとするなど、あいまいさが目立つからだ。今回も「再稼働ありき」ではないかとの疑念を向けられても仕方なかろう。

 佐賀・玄海原発の再稼働に向けた海江田万里経済産業相の「安全宣言」は、福島の事故が収束を見通せない中で早々と打ち出された。事故原因もまだ解明されておらず、安全の根拠があいまい過ぎるという批判は今なお根強い。

 原発の安全度を判定する役割はこれまで原子力安全・保安院が担ってきた。しかし安全規制をつかさどるべき保安院は経済産業省の傘下に置かれたままだ。そんな体制で安全評価をしても自作自演とそしられるのが落ちだろう。

 そこで独立性の高い原子力安全委員会を最終関門に据えたのが統一見解のポイントだという。

 今回の事故をめぐる対応では、いずれの組織への信頼も地に落ちている。保安院を早急に独立させるとともに安全委の在り方も見直す必要がある。

 津波や地震など想定を超す事態にどれくらい耐え得るか。新ルールでは事業者である電力会社などが評価を行う。

 定期点検中の原発は簡易な1次評価に合格すれば再稼働できることにした。2次評価は稼働中の全原発を対象にOKなら運転を続けさせ、不合格となれば止める。

 なぜ2段階に分けねばならないのか。点検のスケジュールやテストの内容が明確でないことも相まって分かりにくい。

 玄海原発を抱える佐賀県など地元自治体に戸惑いが広がるのは当然だろう。地元が納得するよう、情報公開による透明性の確保が不可欠といえる。

 枝野幸男官房長官は安全評価に期限を切ることは趣旨に反するとした。「再稼働ありきでない」というのが本意ならばうなずける。安全性の確保こそが何よりも優先されなければならない。

 お手本とするEUのテストでは加盟各国が互いに検証し、不合格なら運転停止や廃炉の措置も取られるという。事業者任せにしない点も見習うべきではないか。

 原発再稼働は早くても今秋まで延びる見通しだ。節電に頼るだけでなく、例えば送電ロスを減らすなど電力不足の長期化にも耐えられる社会づくりも欠かせまい。

(2011年7月12日朝刊掲載)

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