社説 九電やらせ報告書 組織の体質が問われる
11年7月19日
やはり関与は組織ぐるみだった。佐賀県・玄海原発の県民説明番組をめぐる「やらせメール」問題で、九州電力が調査報告書を公表した。
国が主催した番組には、あらかじめ選ばれた県民7人が参加。メールなどでも意見を募った。
本来なら公開の場で県民の疑問や不安に広く応えるべきものだ。
調査結果によると、原子力担当の元副社長と原子力発電本部長の元常務、佐賀支店長の3人が相談して部下に指示。一般市民を装って再開容認の意見を番組に投稿するよう、社内や取引先の関係会社にメールで依頼したことが明らかになった。
不公正な手段を用いて世論を操作しようというやり方は、言語道断というほかない。海江田万里経済産業相がきのう、九電の真部利応社長の辞任を求めたのは当然といえる。
指示を受けて原発運転再開に賛成の意見を投稿した関係者は141人に上るという。賛成意見全体(286件)の半数にも達する。反対意見が163件だったことを考えれば、住民の意見をねじ曲げた九電の責任は重大だ。
投稿を呼び掛ける際、佐賀支店が意見の詳細な例文まで取引会社などに配布していたことにも驚く。「電力不足で熱中症の犠牲になるのは子供や年配者」というもっともらしい文例もあった。
これまで大きな原発事故や不祥事がなく、業界内では「優等生」といわれてきた九電。ところが、なりふり構わず民意を誘導しようとしてきた組織の体質が露呈した形である。
その背景には住民説明会に社員らを動員する「理解活動」と呼ばれる宣伝戦略があったとされる。一連の問題もその延長線上にあることは確かだろう。
やらせメールが問題化した後も変わっていなかったようだ。国とは別に佐賀県が今月8日に開いた県民説明会でも、取引会社の社員に参加を呼び掛け、実際に63人が参加していた。
九電は取引会社に参加辞退を要請しなかったという。社会常識とかけ離れた体質にはあきれるばかりだ。
九電は有識者による第三者委員会を設置して、原因分析とともに再発防止策を検討するとした。プルサーマルの説明会をはじめ過去の事例についても厳しく洗い直す必要がある。
ただ、これらは九電の特異な企業風土なのだろうか。
内向きの体質、部門ごとの縄張り意識や現場と経営陣の距離…。地域独占で保護されてきた多くの電力会社に当てはまりそうだ。
今回の事態を受けて経済産業省は中国電力など過去5年間に国主催の説明会に関与した他の6社に、同様の問題がなかったか月内に報告するよう指示した。
経産省や原子力安全委員会が主催した公開ヒアリングも含め、徹底検証してもらいたい。民意の捏造(ねつぞう)は原子力政策の根幹を揺るがすことを肝に銘じるべきだ。
(2011年7月16日朝刊掲載)
国が主催した番組には、あらかじめ選ばれた県民7人が参加。メールなどでも意見を募った。
本来なら公開の場で県民の疑問や不安に広く応えるべきものだ。
調査結果によると、原子力担当の元副社長と原子力発電本部長の元常務、佐賀支店長の3人が相談して部下に指示。一般市民を装って再開容認の意見を番組に投稿するよう、社内や取引先の関係会社にメールで依頼したことが明らかになった。
不公正な手段を用いて世論を操作しようというやり方は、言語道断というほかない。海江田万里経済産業相がきのう、九電の真部利応社長の辞任を求めたのは当然といえる。
指示を受けて原発運転再開に賛成の意見を投稿した関係者は141人に上るという。賛成意見全体(286件)の半数にも達する。反対意見が163件だったことを考えれば、住民の意見をねじ曲げた九電の責任は重大だ。
投稿を呼び掛ける際、佐賀支店が意見の詳細な例文まで取引会社などに配布していたことにも驚く。「電力不足で熱中症の犠牲になるのは子供や年配者」というもっともらしい文例もあった。
これまで大きな原発事故や不祥事がなく、業界内では「優等生」といわれてきた九電。ところが、なりふり構わず民意を誘導しようとしてきた組織の体質が露呈した形である。
その背景には住民説明会に社員らを動員する「理解活動」と呼ばれる宣伝戦略があったとされる。一連の問題もその延長線上にあることは確かだろう。
やらせメールが問題化した後も変わっていなかったようだ。国とは別に佐賀県が今月8日に開いた県民説明会でも、取引会社の社員に参加を呼び掛け、実際に63人が参加していた。
九電は取引会社に参加辞退を要請しなかったという。社会常識とかけ離れた体質にはあきれるばかりだ。
九電は有識者による第三者委員会を設置して、原因分析とともに再発防止策を検討するとした。プルサーマルの説明会をはじめ過去の事例についても厳しく洗い直す必要がある。
ただ、これらは九電の特異な企業風土なのだろうか。
内向きの体質、部門ごとの縄張り意識や現場と経営陣の距離…。地域独占で保護されてきた多くの電力会社に当てはまりそうだ。
今回の事態を受けて経済産業省は中国電力など過去5年間に国主催の説明会に関与した他の6社に、同様の問題がなかったか月内に報告するよう指示した。
経産省や原子力安全委員会が主催した公開ヒアリングも含め、徹底検証してもらいたい。民意の捏造(ねつぞう)は原子力政策の根幹を揺るがすことを肝に銘じるべきだ。
(2011年7月16日朝刊掲載)