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社説・コラム

社説 再生エネ法案 政策転換の契機とせよ

社説 再生エネ法案 政策転換の契機とせよ

 太陽光や風力などによる電力の全量買い取りを電力会社に義務付け、かかった費用は電気料金に転嫁する。そんな仕組みを盛りこんだ再生エネルギー特別措置法案が審議入りした。

 国のエネルギー政策の転換につながる重要な法案である。与野党は多角的に検討を加え、より良い制度の導入につなげるべきだ。

 菅直人首相は成立を退陣条件の一つに掲げるが、政局に絡めた駆け引き材料にしてはならない。

 一般家庭の太陽光発電で余った電力については、電力会社が高値で買い取る制度が2009年11月に導入された。しかし、それ以外の電力には買い取り義務はなかった。このため、水力を除く再生可能エネルギーの割合は電力全体のまだ1%と伸び悩んでいる。

 民主党はもともと固定価格での全量買い取りをマニフェストに掲げていた。法案の閣議決定は震災当日の3月11日で、福島第1原発事故を受けたものではない。

 ところが福島の事故で、30年までに原発への依存度を50%以上にするエネルギー基本計画が抜本的な見直しを迫られている。今後は原発を縮小する方向に進むのは間違いあるまい。

 では、それに代わる電源として再生可能エネルギーをどう増やしていくのか。時間軸を明示した中長期的なビジョンが法案審議の前提となるはずだ。

 地熱や水力、バイオマスも含めた再生可能エネルギーは、安全で二酸化炭素も出さない。小規模分散型の発電は、電力の地産地消にもつながろう。

 ただ、現時点で欠点とされるのは高コストである。経済界には電気料金の値上げへの警戒感が根強い。企業の海外移転が進むと警告する向きもある。一方で、新たなビジネスチャンスが生まれると歓迎する声もある。

 買い取り価格をどう設定するかも鍵を握る。高いと新エネルギーの普及は進むが、電気料金がはね上がる。低いと普及しにくい。

 海江田万里経済産業相は標準家庭で月150円アップに抑えると説明した。その根拠や前提を明らかにしてほしい。

 電気を多く使う業種には省エネ促進や研究開発の面で支援する方針というが、自民党などは負担緩和策の明確化を求めている。低所得家庭への配慮をどうするかも政府は説明すべきだろう。

 さまざまな問題はある。それでも全量買い取り制度は不可欠である。新たな電力開拓のベースキャンプのようなものといえよう。

 次の段階として、原発に偏っていた研究開発費を再生可能エネルギーに振り向ける必要がある。量産効果とあいまってコストダウンを図ることができれば、電気料金への転嫁も小幅に抑えられる。

 天候などで発電量が変わる欠点の克服も課題だろう。電力の需給を調整する次世代の送電網「スマートグリッド」の整備も急務だ。

 野党も総論では賛成の立場である。必要な修正を加えて成立させ、政策転換の契機にしたい。

(2011年7月17日朝刊掲載)

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