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社説・コラム

社説 原発の新工程表 帰郷できる環境整えよ

 福島第1原発事故の収束に向け、政府と東京電力はきのう、新しい工程表を発表した。ステップ1の3カ月で、原子炉と使用済み燃料プールを安定的に冷やすなどの課題は達成できたという。

 4月17日に最初の工程表を示してから、改定と軌道修正を繰り返した。放射能汚染の際立った拡大は何とか食い止めている。

 ただ不安は残る。1~3号機の原子炉はすべてメルトダウン(炉心溶融)していた。建屋の一部はなおむき出しのままである。

 原子炉から漏れた汚染水を集め浄化装置で処理した後、再び炉内に戻して燃料の冷却に使うシステムはなかなか安定稼働しない。

 米国製やフランス製の機器を組み合わせて取り付けた設備で、トラブルを繰り返している。このため、東電は稼働率の目標を下方修正した。

 放射性物質の大量飛散につながる水素爆発を防ぐ窒素注入は、作業環境が厳しかった3号機でも先週やっと始まった。爆発の危険性は抑えられるとみている。

 しかし最近になって、牛の餌となる稲わらのセシウム汚染が福島県外にまで広がっていたことが判明した。事故直後の爆発が原因とみられる。影響の深刻さをあらためて印象づけた。

 工程表のステップ2では、「放射性物質の放出が管理され、放射線量が大幅に抑えられている」との目標を掲げる。達成時期も3~6カ月と従来のままだが、それほど楽観できるだろうか。

 循環注水冷却システムの稼働実績からすれば、原子炉が安定する100度以下の冷温停止に持ちこむのは容易ではなかろう。

 中期的課題として3年程度を目安に使用済み燃料の取り出しに着手するという。こちらは、さらにおぼつかないだろう。

 それまでに汚染水が地下に浸透して土壌などに及ぼす影響も問題になる。ステップ2では、地中30メートルまで水をさえぎる壁を埋め込む工事を計画している。

 今後も緊急事態に応じた措置が必要だ。きのうは台風6号の接近に備えて建屋を補修した。強い余震をはじめ津波や風水害を警戒しながらの作業が求められる。

 工事を円滑に進めるには、作業員の被曝(ひばく)線量を減らす対策など作業環境の改善も不可欠だ。

 政府はステップ1の終了を機に、地元の要望が強い20~30キロ圏内の緊急時避難準備区域の解除を検討している。

 放射線量の測定を綿密にし、高濃度地点の除染を始めるなど準備を急ぐべきだ。

 これまで情報を隠したり小出しにしたりして、政府と東電の姿勢は住民の不信を招いている。専門家からの批判も根強い。

 作業の詳細を含め、情報の公開を徹底する必要がある。信頼の回復だけでなく、事故原因の究明にもつながろう。

 避難先の住民は、帰郷のめどすら立っていない。暮らしと仕事を再建するため、一日も早く事故を収束させなければならない。

(2011年7月20日朝刊掲載)

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