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社説・コラム

社説 保安院の「やらせ」依頼 世論誘導の全容明かせ

 経済産業省の原子力安全・保安院は、原発の安全確保のため電力会社を監視する規制機関のはずである。ところがプルサーマル計画のシンポジウムで、賛成の声を住民から出させるよう中部電力、四国電力に依頼していた。

 国と業界挙げての原発安全キャンペーンのゆがんだ実態を見せつけられた思いだ。

 九州電力の「やらせメール」問題を受けて、同じような関与がなかったかどうか経産省が電力7社に指示した社内調査。その結果、皮肉にも自らの「やらせ」依頼が発覚したのである。

 国のプルサーマル計画を住民に理解してもらうのが、シンポの趣旨だった。質疑応答と討論を通じて、参加者が判断するのが本来の姿だろう。

 反対派の発言だけにならないよう質問を作成して地元住民に発言させてはと主催者が頼む行為は世論の「偽装」である。シンポ自体が形骸化している。

 プルトニウムとの混合物を燃料にするプルサーマル。原発の新増設に比べ地元のメリットが少ない一方で、不安視する住民もいる。賛成の声が出にくいとの懸念が「やらせ」につながったのではないかとみる向きもある。

 経産省は法曹関係者らによる第三者委員会を設ける。電力2社の発表内容について、依頼した職員の特定や組織ぐるみかどうかといった事実関係を調べる方針だ。海江田万里経産相が「うみを出し切る」と述べたのは当然だろう。

 しかし、この調査だけでは極めて不十分と言わざるを得ない。

 ほかの電力会社も社員や協力会社などにシンポの開催を周知したり、参加を求めたりしていた。地元住民にも質問や意見を出すよう要請した会社も複数ある。

 中国電力も2009年に松江市で開かれた説明会で、原発に協力的な住民に要望などを発言するよう依頼していた。参加者の半数は中電関係者だったという。

 国側のあからさまな依頼の有無にかかわらず、こうした催しでは電力会社による事実上の大量動員が常態化していたのではないか。そんな疑念も拭えない。

 問題の根深さは、国と電力会社の原発推進の手法そのものにあろう。安全に関わる批判や反対意見は受け入れようとせず、交付金や寄付など地元への利益供与で住民を説得してきた。

 これまで繰り広げてきた原発の安全キャンペーンの問題点を洗いざらい検証する必要がある。どこがその主体となるべきか。

 経産省は保安院と原発を推進する資源エネルギー庁を抱え、人事交流もある。とても信頼して任せるわけにはいくまい。例えば細野豪志原発事故担当相に直属する調査機関を設けてはどうだろう。

 その上で保安院の解体を図るほかあるまい。原発の推進部門とは切り離し、政治からも独立した機関が要る。そこに豊富な専門知識と高い技術力を備えたスタッフを集めるなど、原子力の安全行政の抜本改革を急ぐべきである。

(2011年7月31日朝刊掲載)

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