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社説・コラム

社説 米朝対話の再開 ウラン濃縮封じ込めよ

 北朝鮮の非核化をめぐる米朝対話がニューヨークで1年7カ月ぶりに開かれた。

 最大の焦点は昨年11月に北朝鮮が公表したウラン濃縮施設だった。監視が行き届かず、原爆が製造できるだけの高濃縮ウランを手中にされてはたまらない。そう判断したからこそ、対話再開に距離を置いてきたオバマ政権も態度を変えたのだろう。

 しかし、2日間にわたった協議は平行線をたどったようだ。

 「電力生産のための平和的活動だ」。北朝鮮の代表はそう述べ、米側が迫ったウラン濃縮の即時停止を拒否したことを明かした。

 身勝手な言い分だ。北朝鮮に現在、濃縮ウランを使う原発があるはずはない。「核」を交渉カードに使おうとする思惑は隠しきれるものではなかろう。

 仮に平和利用とするなら、国際原子力機関(IAEA)の査察を受け入れるなど、まず国際社会のルールを守るべきではないか。

 今回の対話は、約2年半ぶりにインドネシア・バリ島で実現した韓国と北朝鮮の高官協議に続くプロセスといえる。

 ただ米国は本格交渉とはみなさず、あくまで予備的協議と位置付ける。何度も裏切られ、そう簡単に警戒心は解けまい。

 2009年4月、6カ国協議から一方的に離脱した北朝鮮。前後して長距離弾道ミサイルの発射や2度目となる核実験を強行した。韓国海軍哨戒艦の沈没事件や韓国・延坪島(ヨンピョンド)の砲撃で挑発を繰り返し、国際社会を震え上がらせた。

 米国を今回、対話の場に誘い出したことで北朝鮮側は得点を挙げたつもりなのだろう。さして進展がないにもかかわらず、代表は「非常に建設的で実務的だった」とし、協議継続の構えを示した。

 その点では米国側も同じ意向のようだ。対話をてこに、3度目の核実験や韓国に対する武力挑発は抑えておきたい。そうした思惑を指摘する声がある。

 というのも米国は来年に大統領選を控えている。財政赤字など国内問題に苦しむオバマ政権が北朝鮮の「暴発」を再び許せば、再選戦略は大きくぐらつく。

 米朝対話に先駆け、北朝鮮への働き掛けを求めて中国にクリントン米国務長官を送ったのも、そんな危機感からだろう。  気になるのはその中国だ。北朝鮮の最大の支援国で、6カ国協議の議長国も務める。だが内政の課題に追われ、多国間対話の再開にはさほど熱意を見せていない。

 もとより北朝鮮は慢性的な食糧難やエネルギー不足を抱える。国民の窮乏を思えば、核を放棄し、他国から支援を仰ぐのが最優先のはずだ。

 日本は拉致問題の解決を図るためにも、そうした情勢を冷静に見極めなければならない。その上で米韓と緊密に連携を取り、中国を揺り動かす努力が望まれる。

 北朝鮮の「非核化」は東アジア安定の出発点となる。6カ国は協議の意味を再認識し、次の一手を急ぐべきだ。

(2011年8月2日朝刊掲載)

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