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社説・コラム

天風録  「鳩子の海はこれから」

 「朝ドラ」と呼ばれるNHKテレビの連続ドラマシリーズが始まって半世紀。「ゲゲゲの女房」や「てっぱん」が記憶に新しいが、同じ中国地方ゆかりの「鳩子の海」はどうだろう。1974年度に放映された▲戦後の復興とともに成長する女性が主人公。タイトルが示す物語の舞台は、山口県上関町だ。普段はのどかな海なのに、風雨が強まると激しい波が立つ。豊予海峡につながる周防灘に面しているからだ▲ドラマから7年後、「大波」が町民を巻き込んだ。中国電力の原発建設構想である。「鳩子の海を汚すな」と反対の声が上がる一方で、過疎を食い止める決め手にと期待する向きも。二つの流れがぶつかり合い、海はたびたび荒れてきた▲福島の原発事故を境に、潮目は変わった。放射能汚染の不安が列島に広がる。福島で開かれた原水禁大会。核兵器廃絶と脱原発を一体で訴え、上関の住民も駆け付けた。推進の声は水底に潜ったかのようだ。「国の方針がはっきりするまでは」との様子見か▲来月には町長選がある。フクシマ以後初の「民意」として注目を集めるが、近隣の市町議会から中止や凍結を求める意見書が相次ぐ。「新たな原発が要るのか」と押し寄せる大きな潮流。いつになったら穏やかな海を取り戻せるだろうか。

(2011年8月4日朝刊掲載)

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