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社説・コラム

『この人』 元広島市長の父の著書を復刊 浜井順三さん

 戦後初の公選で広島市長となり、廃虚からの復興に尽力した父、故浜井信三元市長の著書「原爆市長」を復刊した。初版2千部のうち半分を、復刊に賛同した団体、個人が購入し、東日本大震災の被災地に贈る。「被災地で著書が読まれると知ったら父もきっと喜んでくれる」

 被災地の姿は被爆後の焼け野原と重なる。同じ思いを抱いていた友人たちと復刊を決めた。

 浜井元市長は1947年から落選を挟み4期16年間務めた。「原爆市長」には占領軍の影響下、初の平和宣言を読んだ思いや、平和記念公園、平和大通り(いずれも中区)建設の経緯、原爆ドームの保存運動など市政の歩みがつづられている。

 元市長の長男。市長就任間もないころ、「二度と同じ過ちを繰り返してはならない。広島を立派によみがえらせるんだ」と語っていたのを覚えている。

 旭町(南区)の自宅では毎晩、裸電球の下で若い職員と意見を交わしていた。夜通し平和大通りの図面を引くこともあった。「いずれ人口40万人の大きな都市になる」と口にしていた。「広島を再生させることは、生き残った者の使命だと感じていたのだと思う」

 原爆が投下された時、西城町(現庄原市)に疎開していた。3週間後に広島に戻り、当時市の配給課長だった父の自転車に乗せられ、惨状を目の当たりにした。それだけに「被災地も必ず立ち直る。復興を遂げた広島の姿を励みにしてほしい」と願う。佐伯区で妻と2人暮らし。(野田華奈子)

(2011年8月7日朝刊掲載)

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