×

社説・コラム

社説 中国の空母 軍拡の連鎖に歯止めを

 軍事力の増強を続ける中国が、ついに空母を手にした。

 旧ソ連海軍の中古艦「ワリャク」を調達して改造した。今月10日から試験航海を始め、来年にも正式に就役させるという。

 さらに国産の空母2隻の建造を準備中とも伝えられる。具体化すればアジア太平洋地域の軍事バランスを大きく変えるだけに、看過できない動きだ。周辺国の「中国脅威論」は一段と強まろう。

 空母を持つことは、軍事的に特別な意味がある。艦載機を積み、遠くまで出動して他国の領土を空爆する力を備えるからだ。

 既に9カ国が保有するが、世界に広く展開させているのは最多の11隻を抱える米国だけ。大国意識を膨らませる中国からすれば悲願だったようだ。

 その狙いは何か。海洋権益の拡大が念頭にあるのは間違いなかろう。中国国防省は先月、空母保有を認める際に「平和外交と防御的な国防を堅持する」と説明したが、にわかに信じがたい。

 南沙諸島などの領有権をめぐりベトナムやフィリピンとの緊張が続く南シナ海だけではない。広く西太平洋一帯に空母を展開させ、海洋資源確保などで他国に先んじようとする思惑も透けて見える。

 もう一つの意味合いは「空母を持てる国になった」という国内向けアピールにありそうだ。経済成長の一方で貧富の格差が深刻化している。不満をそらそうと、国威発揚に利用している節もある。

 しかし中国の振る舞いを、そのまま認めるわけにはいくまい。

 東南アジア諸国は何年も前から中国の空母保有を見越し、潜水艦など海軍力を強化してきた。さらに建造が続くなら軍拡の連鎖はエスカレートしよう。

 ここは国際社会の一員としての自覚と自制を強く求めたい。

 日本はどう対応するか。今月公表された防衛白書は、空母建造の動きも踏まえて「高圧的」という表現で中国に懸念を示した。それ自体は当然の指摘といえる。

 ただ空母本体が完成したとしても、肝心の艦載機の開発や訓練は相当遅れているもようだ。本格運用は10年以上先との見方もある。現実的な軍事力がどの程度か、冷静に見極める目も必要となる。

 防衛省は中期防衛力整備計画で潜水艦を16隻から22隻に増やすなど、自衛隊の「対中国シフト」を強めようとしている。

 中国側がどう受け止めるかも考えておきたい。かえって軍拡の口実にされる恐れはないだろうか。

 いたずらに脅威を叫ぶだけでは双方のナショナリズムをあおりかねない。まずは対話を重ねながら緊張緩和に導くのが、隣国としてあるべき姿勢だろう。

 日本経済にとって、もはや中国との結びつきは切っても切り離せない。幅広い視野から両国関係を再構築する時期を迎えている。  尖閣問題が象徴するように民主党政権下で両国間のチャンネルは途切れがちだ。なのに政局の混迷で外交は機能不全に近い。一日も早い立て直しが求められる。

(2011年8月19日朝刊掲載)

年別アーカイブ